環境技術と高齢者向けサービスに注目ーー国内スタートアップ資金調達振り返り(8月12~16日)

2024年08月19日BRIDGE


先週に引き続き国内スタートアップの調達状況をまとめてお届けする。今週の資金調達の傾向としてはまず、環境技術関連の企業が複数の資金調達を実施しており、持続可能な社会の実現に向けた投資が活発化している。次に、高齢化社会に対応したサービスや、ペットケアなど、生活に密着した分野での資金調達も目立つ。さらに、給与情報や資産形成データの共有プラットフォーム、インタラクティブ動画技術など、デジタル技術を活用した新しいサービスへの投資も見られる。ではそれぞれトピックスごとにみてみよう。

環境技術とサステナビリティ関連の資金調達

環境技術とサステナビリティに関連する分野で、複数の企業が資金調達に成功した。まず、京都大学発のスタートアップである Atomis は、次世代多孔性材料の開発を行っており、シリーズ C ラウンドの 1st クローズで資金調達を実施した。同社は CO₂ の分離回収や次世代高圧ガス容器「CubiTan」の開発を進めている。この資金調達により、環境領域やエネルギー領域での開発を加速させる計画だ。

次に、理化学研究所発のスタートアップ BEAM Technologies は、シードラウンドで2億円を調達した。BEAM Technologies は人体に安全で殺菌・ウイルス不活化が可能な遠紫外線発光 LED の開発を行っている。この技術は、農業や水産業、医療分野など幅広い応用が期待されている。

さらに、カーボンクレジットの開発・提供を行うクレアトゥラは、シリーズ A ラウンドの 1st クローズで3.5億円を調達した。クレアトゥラのリリースによれば、同社は2022年の設立以来、累積で80万トン以上のカーボンクレジットと再エネ証書を販売してきたことが報告されている。今回の資金調達により、アジア展開と SaaS 開発の加速を目指している。

これらの資金調達は、環境技術とサステナビリティ関連の分野に対する投資家の関心の高さを示している。特に、CO₂ 削減や再生可能エネルギー、殺菌技術など、社会的ニーズの高い領域での技術開発に注目が集まっていることがうかがえる。

生活関連サービスの資金調達

生活に密着したサービスを提供する企業も、今週複数の資金調達を実施した。まず、ペット向け健康管理サービス「Buddy Cloud」を展開する Buddy Cloud が、KUSABI から資金調達を受けた。同社は尿検査キット「Buddy Medical Check」の提供や、LINE 上での健康管理サービスを展開している。この資金調達により、サービスの拡充と市場展開の加速を図る見込みだ。

次に、高齢者向けのアシスタント機能・見守り機能付き決済(プリペイドカード)サービス「KAERU」を提供する KAERU は、約1.3億円の資金調達を実施した。KAERU は高齢者の金銭管理支援や見守りサービスを提供している。調達資金を活用し、サービスの提供価値強化と B2B2C モデルでの顧客基盤拡大を目指している。

DXによる新サービスの資金調達

デジタル技術を活用した新しいサービスを提供する企業も、今週資金調達を実施した。まず、企業の給与情報や口コミを集めたデータベースサービス「OpenMoney」を運営する JUKKI は、シリーズ A ラウンドで約1.5億円を調達した。JUKKI のリリースによると、同社の登録ユーザ数が10万人を超え、公開されている企業の給与情報や口コミは15万件を超えている。また、今年3月には個人の資産形成データを集めた「OpenMoney投資版」をリリースするなど、サービスの拡充を進めている。

次に、インタラクティブ動画技術「Tig(ティグ)」を展開するパロニムは、直近のラウンドで5億円を調達した。パロニムの技術は動画内のオブジェクトに情報をタグ付けすることで、ユーザが表面的な情報を超えて検索できるようにする次世代のインタラクティブ動画技術だ。この資金調達により、ベクトルグループとの資本提携も実現し、新たなビジネス展開が期待されている。

資金調達の規模と投資家の傾向

今週の調達額については、パロニムの5億円からKAERU の約1.3億円まで分布した。投資家の傾向としては、ベンチャーキャピタルに加えて、事業会社やその関連会社からの出資が目立つ。例えば、Atomis の資金調達に関する記事では、積水ハウスや西部ガスグループの投資会社である SG インキュベートが参加している。また、クレアトゥラの資金調達では、DBJ キャピタルや三井住友海上キャピタルといった大手金融機関系の投資会社が参加している。

また、大学発のスタートアップへの投資も見られる。BEAM Technologies の資金調達に関する記事では、東京理科大学イノベーション・キャピタルがリードインベスターとして参加しており、アカデミアと産業界の連携が進んでいることがうかがえる。

環境技術やサステナビリティ関連の分野は引き続き成長が期待される。クレアトゥラの報告によれば、世界的なカーボンクレジット需要は2030年までに11億トンに拡大すると予想されている。また、日本でも2026年度から排出量取引制度が本格化するため、この分野での新たなサービスや技術への需要は今後さらに高まると考えられる。また、高齢化社会に対応したサービスの発展についても、KAERU の資金調達に関する記事では、2030年には認知症当事者が532万人、軽度認知障害( MCI )の人を含めると約1,100万人に達すると推計されている。これは日本の人口の約9% に相当し、高齢者向けサービスの重要性がますます高まることを示唆している。