お盆の帰省だけでなく実家を「つかず、離れず」いつも見守る スマホいらずの機器続々
2024年08月12日産経新聞
親が高齢になると、気になるのが健康や日常の様子だ。1人暮らしの高齢者が増えるなか、つかず離れず、実家と親の様子を見守り、普段の親子の交流を促す機器やサービスが普及しだした。
120㌔先、実家の居間へ毎日「顔出し」
「そっちは雨降った?」
「降ってない。夜に降るらしいけれど」
横浜市で1人暮らしする林美沙子さん(91)は、1日2回、居間のソファに座り、「テレビ電話」で娘と世間話を交わす。
相手は120キロほど離れた栃木県益子町に住む長女、矢島真由美さん(60)。家業があり横浜の実家に行けるのは月1回程度だ。
「母に何かあってもすぐ駆けつけられない。携帯にかけて出ないと、倒れているかもと心配になる」
テレビ電話は、そんな心配を少し和らげようと矢島さんが実家のテレビに機器を付けた。利用するのは、シニア向けデジタル事業を行うチカク(東京)とNTTドコモが5月に開始したサービスだ。
小さな家の形をした機器(希望小売価格3万3000円)には、通信用SIMカード、カメラ、マイク、スピーカーが内蔵され、これをつなぐとテレビが電話のようになる。月の利用料は1980円。
話し相手は、アプリで機器と連携したスマホを持つ家族。機器は人工知能(AI)と連動し、親がテレビの前にいるかをスマホで確認できる。追加で設定すれば、起床や就寝など生活リズムも把握できる。
画面の前で「歩いてごらん」気付いた異変
薬は飲んだか、天気はどうか。母娘はテレビ電話でたわいのない話をする。しかし、5月のある日は違った。矢島さんが「次は腰の病院にいつ行くの?」と聞くと、林さんが「痛くて動けない」とつぶやいた。
「歩いてごらん」。矢島さんに促されソファから立ち上がった林さんは脚をひきずった。座って話す様子に異変は見られなかったのに。
「こりゃダメだと思い、すぐに病院へのタクシーを手配しました」と矢島さん。結局、林さんは「脊柱管狭窄(きょうさく)症」と診断されて入院。「要介護2」認定も受け、退院後は通所リハビリの利用を始めた。
「画面越しに異変を察知して、早めに病院につなぐことができたのは幸いでした」と矢島さんは胸をなでおろす。一方の林さんは、見守られているというよりは、会話自体を楽しんでいる。「娘の元気な顔が見られるのはいいわね。パジャマを着替えずにいると怒られるのは面倒だけれど」
かわいいロボット、冷蔵庫にピタリ 多様な「見守り」
高齢の親の見守りをうたう機器やサービスは暮らしに浸透しつつある。電子機器メーカー、ユピテル(東京)の小型の見守りロボット「ユピ坊」(6万9300円)は、令和2年の発売からおよそ3年半で1000台以上が売れた。
顔が画面となり、娘・息子のスマホからユピ坊、または親のユピ坊からスマホへ、簡単にテレビ電話がかけられる。
「購入者のほとんどは50~60代で、離れて暮らす70代以上の親を持つ娘・息子世代。特にスマホを持たない、使いこなせない親とのコミュニケーションに利用されている」(同社の担当者)
3年には、実家の冷蔵庫に取り付け、開閉を検知して見守る機器「まもりこ」を、ネコリコ(東京)が発売。機器の価格は1万3200円、月の利用料が550円。
「ゆるっと見守り、がコンセプト。親子が普段通りに別々の場所で暮らしながら、親に何か異変があったときだけ通知する。親に『どうしてる?』と連絡するきっかけになったと話すユーザーもいます」(ネコリコの担当者)
つかず離れず親を見守るサービスは多様化している。背景にあるのは、高齢者(65歳以上)の1人暮らしの増加と、人口減の影響だ。昭和55年、高齢男性の1人暮らしは、およそ「23人に1人」だったが、令和2年は「7人に1人」に。女性も「9人に1人」から「4.5人に1人」に。男女とも人数も増えた。
高齢者の見守り支援を課題とし、見守り機器購入への助成を始める自治体もでてきた。5年度から始めたのは兵庫県たつの市。機器の費用を3万円を上限に補助する。
同市の高年福祉課の担当者は、助成を始めた理由の一つとして、「今後の人口減も見越して」と語った。従来の地域住民による見守り事業で「見守る側」を担う住民に先細りが見られるといい、「離れて暮らす家族からも暮らしを見守ってもらうようになれば」。