ICTでお年寄りを遠隔見守り365日…AIとの会話やポットの使用状況で異変を察知

2024年05月26日読売新聞


 ICT(情報通信技術)を活用し、一人暮らしのお年寄り向けに見守りサービスを提供する動きが広がってきた。今後、65歳以上の単身高齢者の増加が見込まれる一方、見守りを担う民生委員などの人材不足は深刻化している。識者からは「ICTなどを使った効率的な支援がますます求められる」との声が上がる。

安心感「友得たり」

 今月上旬、福岡県大野城市内のアパート。一人暮らしの女性(83)方の居間に、見守り機器を友に見立てた一句が飾られていた。「薫風や  八十路やそじ ひとり身 友得たり」

 女性は昨年7月から市の見守り事業を利用している。人感センサーで24時間動きを感知できなければ、事前に配布されるキッズ携帯にコールセンターが連絡。電話に出なかった場合、警備会社のスタッフが駆けつける仕組みだ。

 過去に胃腸炎で緊急入院したこともある女性。身内は近くにおらず、孤独死などへの不安を抱えており、「何かあればすぐ対応してくれるので、すごく安心感がある」とほほ笑んだ。

 市は昨年度、見守りや緊急通報事業などを行う「あんしんサポート」(福岡市)に委託し、事業を始めた。一人暮らしの高齢者らが介護保険料に応じ、月500円以内で利用できる。今月21日時点の利用申請は500件に上る。コールセンターを通じて救急車が駆けつけた事例もあるという。

 市すこやか長寿課の藤木大介係長は「高齢化で民生委員らの負担が増えている。24時間365日対応可能なICT機器は有事にも速やかに対応でき、人手を補ってくれる」と述べた。

民生委員はなり手不足

 高齢化や核家族化の影響で、今後、単身高齢者は急増する見通しだ。

 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が4月に公表した推計によると、65歳以上の単身世帯は2020年に738万だが、50年には1・5倍の1084万に増え、世帯総数の2割に達する。

 その一方、自宅を訪問するなどして単身高齢者を支える民生委員は、なり手不足に陥っている。国の統計では、全国の定数24万548人に対し、23年3月時点で1万3122人の欠員が生じている。この10年で定数は約6600人増加した反面、実際の委員数は約2700人減少した。

大手企業も参入

 こうした中、大手企業も見守りサービスに参入している。

 日本郵便(東京都)は22年からディスプレー付きAI(人工知能)スピーカーを使った自治体向けサービスを始めた。1日に数回、食事や服薬、睡眠の状況を、高齢者宅に設置したAIスピーカーが音声や文字で問いかける。回答は自治体が管理画面で確認。訪問しなくても生活状況を把握できる。今月1日までに16市町村で利用実績があるという。

 象印マホービン(大阪府)は電気ポットを活用した見守り事業を23年にリニューアル。24時間以上、ポットの使用が確認できなければすぐにメールを送る機能などを追加した。担当者は「普段使っている家電を利用するだけなので、ストレスが少ない」と話す。

 高齢者福祉に詳しい岩手県立大の小川晃子名誉教授(地域福祉)は「民生委員らによる見守りだけでは限界がある。今後、ICT機器の活用がますます必要となる」と指摘。「機器による見守りを『監視』と感じる人もいる。利用法を理解してもらうことも求められる」としている。

「居住サポート住宅」認定制度新設へ

 単身高齢者の見守りを支援するため、国も対策強化に乗り出す。国土交通省は、見守り機能が付いた「居住サポート住宅」の認定制度の新設を目指している。今国会で審議中の住宅セーフティネット法などの改正案の成立後、補助制度などの整備を進める。

 賃貸物件では孤独死や遺品の処理への対応を懸念する大家が、高齢者の入居を断るケースがある。国交省の2021年度のアンケート調査では全国の大家や不動産管理会社など187団体のうち、高齢者の入居に拒否感があるとの回答が66%に上った。

 新設する制度では、福祉事務所を設置している自治体が、賃貸アパートなどをサポート住宅に認定。都道府県が指定する「居住支援法人」が高齢者宅を訪問し、入居後の日常的な見守りを行う仕組みだ。人感センサーといったICT機器の活用も検討されている。

 35年までに10万戸の確保を目標に掲げる。国交省安心居住推進課の担当者は「サポート住宅を増やすことで、大家の不安感を軽減し、高齢者の支援につなげたい」としている。