熊本の介護施設、ロボットで負担軽減 見守りはセンサー
2024年03月29日日経新聞
熊本県の介護施設の現場で、ロボットやICT(情報通信技術)を活用した取り組みが加速している。県は2026年度に5000人、40年度に1万人規模の介護人材が不足すると試算する。作業の効率化に加え、重労働のイメージが強い介護現場の負担を軽減することで若い世代が就職先として関心を持つきっかけになることも期待する。
足の悪い高齢者を車椅子から軽々と持ち上げ、ベッドへと運ぶ移乗支援ロボに、移動可能な自動排せつ処理装置。睡眠の状況や動きはベッドに取り付けたセンサーで把握し、スタッフルームで一元管理――。
熊本県は17年度から、介護ロボットの導入補助を本格的に始めた。介護施設などが導入する際、移乗支援や入浴支援ロボは1機器につき100万円、それ以外のロボは30万円を上限に補助する。23年度までに延べ506施設・事業所が導入した。
介護職員の離職理由で多いのが「利用者を抱き上げる際に腰痛を発症した」ことだ。移乗や入浴時などは抱えられる側にとっても負担が重く、スムーズに運べるロボットの活用は職員・利用者の双方にとってメリットが大きい。
県はさらに20年度から、介護職員の勤務環境を改善するためのICT技術の導入支援も開始。見守り機器の導入に必要な通信環境の整備に最大150万円を補助する。23年度までに延べ248施設・事業所が導入した。
特に効果が大きいのが「見守りセンサー」だ。認知症の利用者の夜間の見守りや、利用者がどれだけ睡眠をとれているか、起き上がったり立ち上がったりしていないかなどベッド下部に付けたセンサーで見守る。
導入した施設では以前は職員が1時間に1回のペースなどで見に行っていたが、ICTで一元管理できるようになり、負担が大幅に軽減した。
熊本県の調査では、2022年度の県内介護職員数は3万2297人。現状は「需要と供給はなんとか均衡が取れているのではないか」(高齢者支援課)というが、先行きの人手不足感は厳しい。特に新卒採用に苦戦し「どの施設も若い人の応募が少ない」(同)のが実情だ。
県は「セカンドキャリア」と銘打ち、60歳代や70歳代のアクティブシニアを積極的に採用し「介護アシスタント」として活躍を期待する。主に介護職の周辺業務、例えば清掃や洗濯、ベッドのシーツを整える作業などにあたってもらい、介護の専門スタッフは中心業務に専念してもらう仕組みだ。外国人スタッフも23年の推計で700人近くが従事している。
熊本県介護福祉士会の石本淳也会長は「大変そう、つらそうというイメージが先行」している状況を改めようと、動画や小冊子を作成して介護の仕事の重要性を若い世代にアピールすることに注力している。ロボットやICTを駆使して重労働から解放されれば、高齢者の生きがいを支える介護の面白さに気づいてもらえる可能性も高まる。
国は介護業界の慢性的な人手不足に対処しようと介護職員の処遇改善に向けた補助金を用意するなど手を打ち始めたが、他業界でも賃上げの動きが広がるなか、どれだけ効果があがるかは未知数だ。介護現場の働き方を改善し、社会的な意義と楽しさを地道に訴え続けていくことは、若い世代をひき付けていく上で大きな意味を持つ。
人手不足は九州でも深刻、外国人雇用が選択肢
2022年に介護労働安定センターが実施した「介護労働実態調査」によると、九州・沖縄8県で人手不足の介護施設の割合が最も低いのは佐賀県の62.2%だった。沖縄県など5県で全国平均(69.3%)より不足の割合が高く、人手確保が大きな課題となっている。
介護人材の事情に詳しい西南学院大学の田中康雄教授は「離職防止と、人材確保の双方が必要だ」と指摘する。教授の研究では、離職防止には社会福祉士の資格を持つ第三者が施設の従業員と面談し、やりがいを思い起こしてもらうことが有効だという。
人材確保を巡っては外国人材の雇用も欠かせないが、新たに雇うのをためらう施設も多い。田中教授は「外国人を活用できている施設の例を集約し、共通のマニュアルを構築するべきだ」と話す。