大学院生発の介護サービス好調 「孫と同世代の友達」が見守ります
2023年12月12日朝日新聞
「孫と一緒に楽しく過ごしているような時間」を高齢者に提供するサービスを、京都大学の大学院生が始めた。名付けて「まごとも」。スマホの使い方を伝えたり、外食に同行したり。「介護とはひと味違う感覚」で高齢者と学生がふれあう。今夏、京都市のふるさと納税の返礼品にも選ばれた。
「村田さん、お茶飲む?」
10月、大津市の村田圭子さん(95)の家を訪ねると、立命館大学4回生の野崎悠平さん(22)が村田さんの耳元で話しかけていた。やかんでお湯を沸かし、急須で緑茶を入れて、熱さ加減を確かめてから村田さんに手渡す。すると、村田さんからは「お菓子を食べる?」と返事が。野崎さんは洋菓子が入ったお菓子の箱に手を伸ばし、「いただきます」と一つ食べた。
村田さんは一人暮らしだ。ヘルパーも週に複数回利用してきたが、それ以外にも見守る人がいれば、と親族が「まごとも」を申し込んだ。野崎さんは、日によって床掃除や衣類の片付けなどのリクエストに応じてきた。利用は1回1時間。この日は、ヘルパーが捜していた行方不明の書類を見つける「お手柄」もあった。
サービスを立ち上げたのは、京都大理学研究科修士課程の山本智一さん(25)。「シニア」の語呂に引っかけて、昨年(令和4年)の2月8日に株式会社を設立した。サービス名の「まごとも」は「孫世代の友達」を意味する。利用する高齢者数は非公表で、学生の登録者は約70人いる。
起業のきっかけは、大学生時代の特別養護老人ホームでのアルバイト経験だ。
孫のように仲良くなってくれる利用者さんには不快に思われないように注意しつつ、「ため口」で話していた。施設側からは「丁寧な言葉づかいを」と注意された。人手不足のため、話す時間を作るよりも効率的に早く作業をするようにとも要求された。
一方、高齢者との会話から人生の教訓や知識を得られることは山本さんにとって有益だった。「介護職員と比べて介護スキルで勝ることはできないが、若者らしさを生かして寄り添い、互いに楽しく過ごせるサービスがあるのでは」と考えた。
まごともの利用者から「テキパキ動いてくれてとても助かる。うれしいし楽しい」、さらに利用者の親族からは「親が楽しそうで、親子の会話も増えた」などの声が寄せられている。
7月には京都市のふるさと納税の返礼品にも選ばれた。現在は京都市とその周辺、大阪市、東京都でサービスを提供している。「まだ知名度は足りないが、孫といるような楽しい時間という新しい形の見守りとして利用してもらいたい」と山本さんは話している。