睡眠の乱れは老化の始まり センサーで質を「見える化」

2023年11月27日産経新聞


一日の始まりを目覚めよく迎えるには、よい睡眠が欠かせない。睡眠不足は生活習慣病などのリスクを高めるといわれ、睡眠の質と認知症との関連を解明するための研究も進む。寝ている間に目が覚めやすい高齢者らには健康不安もあるだろう。一部の自治体は企業と連携し、センサーで高齢者の眠りを「見える化」して適切な睡眠習慣をアドバイスするサービスを提供。睡眠の時間と質は、2025年大阪・関西万博で追求する「健康寿命の延伸」にも影響する。

睡眠時間「短い」日本人

日本人の睡眠時間は各国と比べて短い。2021年に経済協力開発機構(OECD)が、加盟33カ国を対象に実施した調査で、日本人の1日当たりの睡眠時間は7時間22分と最も短く、平均(8時間28分)との差は1時間以上に及んだ。

厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査で20歳以上の睡眠時間は、「6時間未満」が約4割(男性37・5%、女性40・6%)。仕事や育児、ストレスなどが背景にあるとみられる。

睡眠には休息による体力の回復だけでなく、ホルモン分泌や免疫力アップ、記憶の形成、脳内の老廃物除去といった役割がある。

個人や年代によって必要な睡眠時間は異なるが、厚労省作成の解説書「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」では、睡眠時間が6時間未満だったり、不眠傾向だったりする人は糖尿病や鬱病、認知症などのリスクが増加すると指摘。働く世代は6~9時間の睡眠時間が必要としている。

認知症リスクも

睡眠の時間とともに質の確保も重要だ。睡眠の生理的な役割などを研究する東京大大学院の林悠教授(神経科学)は「レム睡眠が少ないほどアルツハイマー型認知症のリスクが高くなることが、統計的に明らかになってきている」と話す。

林氏によると、体を休める浅い眠りのレム睡眠と、頭を休める深い眠りのノンレム睡眠は、適切なリズムで繰り返されることで脳や自律神経、筋肉の疲労を回復させるが、加齢により夜中に目が覚めるなどしてリズムが乱れ、眠りの質が低下しやすいという。林氏は「睡眠時無呼吸症候群は深いノンレム睡眠に入ると気道が塞がり、目が覚めてしまうので治療が必要だ」と指摘する。

林氏は線虫を使った研究で、活発に働いた組織の細胞内にある「小胞体」に不良タンパク質がたまる状態(小胞体ストレス)が、眠りの引き金になるメカニズムを発見。研究を進めることで、睡眠と認知症などの疾患との関係解明につながる可能性がある。

「不眠」数値が減少

一方、高齢者の睡眠について、就寝中の体の動きを分析して質の向上にアプローチする取り組みが広がりつつある。ヘルスケア企業「NTT PARAVITA」(大阪市)のサービス「ねむりの見守り」だ。

NTT西日本とパラマウントベッドが共同出資する同社は情報通信技術を活用し、体に関わるデータを人工知能(AI)で分析。発病には至らないが健康とはいえない「未病」状態をキャッチし、改善することを目指している。

ねむりの見守りでは、ベッドのマットレスや敷布団の下に振動を感知するシート型センサーを設置する。高齢者が布団に入ってから起床するまでの体の動きを記録して眠りの深さなどに関するデータを収集・分析し、結果に基づき保健師や看護師がその人に合った睡眠習慣をアドバイスする。

同社は堺市や大阪大と連携し、令和3年12月~4年10月にかけて実証実験を行った。参加した高齢者約100人のうち、半数は毎月1回、分析結果のレポートを送るだけ。残りの半数にはレポートの送付に加え、保健師や看護師が具体的にアドバイスしたところ、レポート送付だけの高齢者では、不眠を感じる自己評価の数値が微減にとどまったのに対し、アドバイスを受けたグループでは約3割減少した。

同社の延原広大さんによると、睡眠の質が高いと布団に入ってからあまり体を動かさず、熟睡している時間帯が多い。一方、質が悪くなると寝返りで体が動いたり、深夜に目が覚めてトイレに行ったりする時間帯が目立つようになる。こうした睡眠の乱れは認知症患者にもみられるという。

同社は奈良県天理市や福島県会津若松市など約10の自治体や企業にサービスを展開。スマートフォンで分析結果をチェックできるアプリも提供している。延原さんは「アプリを通じ、サービスを利用する高齢者の体調などを遠隔地に住む家族が確認できる。高齢者の見守りサービスとしても展開したい」と話している。