ICTで高齢者の健康管理 どうやって?…電力の使用状況で生活の乱れを把握するサービスも

2023年10月10日yomiDr.


 デジタル技術で課題解決を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)が社会全体で広がる中、医療・介護分野でもICT(情報通信技術)を活用した高齢者の健康管理が進みつつあります。先進的な自治体の取り組みを取材しました。

腕時計型端末を活用…北海道更別村

 「右腕と左腕を反対方向に回してみましょう」

 9月上旬、北海道更別村の福祉センターで開かれた、認知症予防の運動教室。講師の合図で、高齢者が回していた左腕には、時計型のウェアラブル端末が装着されていた。

 端末は村が希望者に貸与し、普段から心拍や血圧、血中酸素濃度、歩数、睡眠時間などを計測するものだ。データは、すべてインターネット上の村の「クラウドサービス」で保存、管理される。高齢者本人がスマートフォンのアプリで数値を確認できる。心拍数や血圧に異常があれば、本人や家族に通知される仕組みだ。

 常に端末を身につけているという辻本やよ江さん(74)は「睡眠時間の計測で、あまり眠れていないことが分かり、早めの就寝を意識するようになった」と話した。

 村では、端末の貸与のほかに、運動やカラオケ教室への参加や病院受診の際に使えるオンライン予約、見守りのサービスなどを一体的に提供している。住民が100歳代まで生きがいを持って楽しく暮らせることを目標に「100歳までワクワクサービス」と名付け、昨年10月から始めた。現在、利用はすべて無料で、65歳以上の人にはスマホも貸し出す。約3100人の村民のうち約500人が利用する。

 特に先進的なのは、家庭の電力使用状況から高齢者の異変を察知する見守りサービスだ。

 提携する奈良県立医大発のベンチャー企業「MBTリンク」の梅田智広社長によると、家庭全体の電力使用状況から、30分ごとに確認する方法が一般的だが、同社の場合、炊飯器や電子レンジなど家電ごとに使用状況を1分単位で分析できる。生活リズムの乱れなどを細かく把握できるため、認知機能の低下にも気付きやすいのが特長という。

 梅田社長は「客観的なデータを基に早期に支援につなげることができれば、医療費や介護費の削減もできる」と強調する。

 村では、消防や医療機関に村民のデータを提供し、救急対応や病気の治療に役立てることも検討しており、「様々なサービスで村民のウェルビーイング(真の幸せ)の実現を目指したい」(今野雅裕・スーパービレッジ推進室長)としている。

歩行姿勢測定改善へ…大阪府豊中市

 大阪府豊中市は、NEC(東京)と連携し、今年度から、高齢者の体力測定結果や栄養状態、歩行姿勢の収集と分析を始めた。客観的なデータを基に適切な情報を提供することで、高齢者自身に、運動や食事などで健康的な生活習慣を心がけてもらう狙いがある。

 市内の福祉施設で9月中旬に行われた体力測定会では、参加者の身長、体重や握力のほか、歩く時の体の傾きなどを把握するため、歩行姿勢をNECの機器で3次元で測定した。介護保険制度で「要支援」と判定された後、市の運動プログラムに参加し、状態が改善した人たちが対象だ。測定結果はその場で点数表になって印刷される。

 「歩行速度が速くなっています。腕の振りのバランスも良いですね」

 市の地域包括支援センターの担当者が一人ひとりに、前回の結果と比較しながら生活を振り返ってもらい、改善点をアドバイスしていた。

 参加した小林照美さん(82)は「測定結果を紙でもらえるので分かりやすく励みになる。筋力がちょっとずつ改善しているので、歩くことを意識して続けていきたい」と話した。

 また、NECのシステムを導入したことで、以前はバラバラに管理されていた測定結果のデータが、すべて個人に結びつけられるようになった。市長寿安心課は「データを分析し、一人ひとりに寄り添った支援を目指したい」としている。

職員の活用能力高めて

 ICTを活用したフレイル対策について、野村総合研究所の横内瑛エキスパートコンサルタントに聞いた。


 今後、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療と介護の需要がさらに高まるのは確実で、ICTを活用した医療福祉行政の効率化は喫緊の課題です。

 デジタル機器を使ったフレイル予防や、自治体事務の省力化の取り組みは徐々に広がっていますが、まだ地域格差があります。

 野村総研が全国の自治体に行った調査では、過半数が「ICT活用のグランドデザイン(全体構想)が描けていない」ことが課題だと答えました。ある程度進めている自治体でも庁内で縦割りの壁があり、連携がスムーズに行かないケースが散見されます。

 自治体がICTを活用した施策を推進するには、医療から福祉の分野まで、どの担当部署の職員でも使えて、データをしっかりと高齢者一人ひとりにひもづけるようなツールを作ることが大事になります。まずは自治体職員のICT活用能力を高めること。そして、高齢者自身も友達同士でデジタル機器に触れてみるなどして抵抗感をなくすことが、スムーズなシステムの導入につながります。

4項目以上 フレイルかも…早期支援へ判別の新基準

 簡単な質問に回答するだけでフレイルを判別できる新たな基準を、東京都健康長寿医療センター研究所などの研究グループがまとめた。国が75歳以上の後期高齢者を対象に導入している「フレイル健診」の質問票の中の12項目のうち、4項目以上に該当する場合に「フレイルの可能性がある」と判定できる。早期の発見と支援につなげることが期待される。

 国が2020年に始めたフレイル健診では、心身の状態などを尋ねる15項目の質問票が使われている。今年4月時点で、9割強の市区町村が採用する。ただ、健康上のリスクを全体的に捉えるものとして使われており、どの項目にいくつ当てはまればフレイルなのか、客観的で明確な判別基準は設けられていない。結果が健康指導にうまく活用されていないことが課題とされる。

 研究グループでは、質問票のうち、12項目が判別の指標として有効だと判断。461人の高齢者を対象に回答状況と、歩行速度なども計測する別の判定基準の結果を比べたところ、4項目以上に当てはまる人がフレイルと判別できた。

 同研究所の石崎達郎研究部長は「高齢者が集まる『通いの場』や、かかりつけ医の問診などで判別が簡単にできる。結果を医療機関による健康指導や個々の健康づくりに役立ててほしい」と話している。