中部電力と三菱商事、高齢者見守りに電力データ活用

2023年08月26日日経新聞


中部電力は三菱商事と組み、家庭や企業から集めた電力データの利用を全国で始める。法改正により、10月から一般企業による電力データの利用が可能になる。第1弾として高齢者の見守りサービスを提供する。日常生活に関わるビッグデータを有効活用した新たなデータビジネスの創出が動き出す。

政府は電力データを有効活用するため、2020年に電気事業法を改正して環境を整えてきた。一般社団法人の電力データ管理協会が電力データを管理し、一定の基準を満たす企業などがデータを扱えるようになる。電力会社が従来の営業区域を超え異業種と組むデータ活用が本格化する。

中部電の販売子会社の中部電力ミライズと、三菱商事の共同出資会社の中部電力ミライズコネクトが家賃債務保証大手のCasaと提携した。

Casaが10月に首都圏などで中部電ミライズと電気契約がない顧客向けに高齢者の見守りサービスを始め、24年11月までに全国に順次広げる。電力データは共同出資会社が同協会から取得する。

入居者の自宅に設置されたスマートメーターで異変を感知する。共同出資会社が独自のアルゴリズムで30分単位の電力消費データを分析、高齢者らの生活パターンの異変をリアルタイムで検知する。異変があった場合に本人や家族らに通知し、孤独死の発生リスクを低減させる。

高齢者の住宅難民化が社会問題になっている。高齢者世帯が増加するなか、不動産所有者らが事故物件のリスクを懸念し、高齢者に物件の貸し出しを敬遠する傾向にある。入居者の健康異変を早期に把握できる仕組みをつくり、不動産所有者が貸し出しやすくする。

日常生活に関係するビッグデータはスマートフォンの位置情報だけでなく、企業が個別で持つデータなど幅広くある。例えば、電力データと渋滞や天候情報を組み合わせることで、運輸業では届け先が不在の場合に発生する再配達の機会を減らせる可能性がある。

小売業では、時間帯ごとの在宅情報を使い、出店戦略や品ぞろえに生かせる。スマホを通じて在宅者だけに店舗の割引クーポンを効率的に配信することも可能になる。中部電と三菱商事は高齢者の見守りサービスを皮切りに、様々な業種との提携を検討する。

海外ではスマートメーターを活用した新事業で先行する。英エネルギー大手のセントリカは類似する条件の店舗の電力データを比較することで、節電余地を分析し、省エネ機器の販売につなげている。

電力データの利用

2023年10月から電力データの有償利用が可能になる。2020年の電気事業法の改正により、電気事業者以外の企業も送配電事業者が所有する電力データを利用できるようになった。一般社団法人の電力データ管理協会(東京・千代田)がデータ管理を担う。個人情報を保護するため、電力需要家の同意がないデータは外部提供されない。

全国でスマートメーターの整備が進み、家庭や事業所などの電力データを把握できるようになった。30分ごとの電気の使用量を計測でき、遠隔から情報を得られる。東京電力、関西電力、中部電力管内では既に導入が完了しており、全国で約8000万台が設置済みだ。電力会社が異業種と組むデータ活用が本格化する。

電力データの活用で、新たな事業の創出が期待される。電力の使用状況は生活実態を反映する。個人の生活パターンと異業種の情報を組み合わせることで、マーケティングや商圏分析などに生かせる。地域や時間帯ごとの人の流れが正確に把握できるようになれば、災害対応にも応用が可能になる。