ソースネクスト、高齢者見守り参入 狙うは「ポケトーク」の再来

2023年08月21日日経XTREND


ソースネクストと米Tellus You Care(テラス・ユー・ケア)は2023年8月2日、ミリ波レーダーを使った高齢者見守りデバイス「POM(ポム)」を発表した。壁に取り付けて使うもので、非接触で睡眠の状態や心拍数などを測定でき、対象者のプライバシーを尊重しつつ見守ることができる。サブスクリプション(定額課金)で提供される専用アプリとセットで利用する。

 POMは手のひらサイズの白い箱型デバイスだ。一人暮らしの高齢者とその家族がターゲットで、高齢者が寝ている寝室の壁に取り付けて使う。

 ミリ波レーダーを内蔵し、部屋の中で高齢者のいる位置や呼吸数、心拍数を測定する。測定したデータはクラウド上で独自のAI(人工知能)によって分析され、専用アプリで「ベッド上の時間」「活動時間」「睡眠時間」「心拍数」「呼吸数」などとして表示される。

 家族は、専用アプリを通じて高齢者の状況を把握できる。心拍数や呼吸数は普段通りか、時間通りに起床して日常生活を始めたか、睡眠時間が普段より短くないかといった高齢者の行動の変化を、ほぼリアルタイムで把握できるので、高齢者に注意を喚起したり、緊急事態に対処したりしやすくなる。地域を登録すると、気象データを基に、アプリに熱中症アラートを出すこともできる。

 家庭向けの高齢者見守りサービスで、ミリ波レーダーを使用するのは国内初という。測定できる距離はPOMから約5メートルの範囲で、カメラを使わないため対象者のプライバシーに配慮しつつ、ほぼリアルタイムで見守りができることや、ウエアラブルデバイスのような身に着けることによるストレスがないのが特徴だ。セットアップは簡単で、本体を壁に取り付けて電源に接続し、専用アプリで初期設定を行うだけで使用できる。

 希望小売価格は3万9800円(税込み、以下同)で、専用アプリは月額1980円のサブスクリプションで提供する。2023年9月30日までは、POM1台と専用アプリ6カ月利用分をクラウドファンディングサービス「Makuake」にて割引価格で販売する。その後、ソースネクストのオンラインショップなど通常の販路で販売するほか、地域包括ケアシステムへの参画により、自治体と連携しての販売も行う。

自身の経験から見守りデバイスを開発

 POMを開発したTellus You Careは17年創業のスタートアップ。これまでビジネス利用向けサービスとして、日本国内では有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに高齢者見守りサービスを納入してきた。例えば、国立がん研究センターの患者を受け入れている、三井ガーデンホテル柏の葉パークサイドなどで利用されている。

 今回は、在宅利用(コンシューマー)向けサービスの提供となる。共同創業者でCEO(最高経営責任者)のタニア・A・コーク氏は、祖父母の介護を手伝った経験から創業し、見守りデバイスの開発に取り組んできた。「多くの人が、家族が自宅で安全に老後を過ごすためのテクノロジーを探している。POMは、住み慣れた場所で高齢になっても暮らすための新しい見守りデバイス。名前は“Peace of Mind(安心)”の略。これを使うことで、高齢者が自立して、自宅で長く過ごせるようになると信じている」と意気込みを語る。

 Tellus You Careが日本でPOMをローンチする大きな理由は、少子高齢化とテクノロジーを受け入れる素地があることだ。「日本の人口動態を見ると、約30%が65歳以上で市場規模として適切。また、日本は介護現場ではIoTやケアロボットなどの導入が進んでいる」(コーク氏)と見ている。

 日本でコンシューマー向けビジネスを開始するにあたり、ソースネクストと協業する。Tellus You Careが開発し、ソースネクストが日本での販売を担当する形になる。ソースネクストでは販売だけでなく、これまでハードウエアを手掛けてきたノウハウを生かし、部品調達や工場ライン改善による供給安定化といった生産調達に関わる部分でも協業していく。

29年度に100万台の販売目指す

 ソースネクストが高齢者の見守り市場に参入する主な理由は、少子高齢化により高齢者見守りニーズが高まってきたことと、それが自社の会員基盤と合致していることだ。

 内閣府によると、75歳以上の後期高齢者は、25年には2200万人を超える見込み。また、厚生労働省は、介護職員が25年に32万人不足すると予測している。これらへの対策として、病院などの施設に高齢者を集めて効率的にケアする方法が考えられるが、厚生労働省によると高齢者の72.2%は自宅で過ごしたいと考えている。実際に、自宅で一人暮らしをする高齢者は増加していて、25年には65歳以上の20%以上が一人暮らしをすると予測されている。

 ソースネクスト社長兼COO(最高執行責任者)の小嶋智彰氏は、「一人暮らしの高齢者が増えている状況で、遠隔地から在宅高齢者を見守るニーズが高まっている。ソースネクストの会員は50~60代が中心で、そうした親を持つ人が非常に多く、高齢者見守りサービスへの興味関心を持つ人が8割を超えている」と言う。

 高齢者見守りサービスは、すでに多くの企業が提供している。電話で確認したり、人感センサーやカメラを使ったりと方法はさまざまだ。POMの強みは、ミリ波レーダーを使うことで対象者のプライバシーに配慮でき、見守る側にほぼリアルタイムで通知を出せることだ。

 同様の機能を備えた競合サービスが登場してくる可能性もあるが、小嶋社長は「『ポケトーク』のように、他社に先駆けて製品を投入することが強みになる」と自信を見せる。ソースネクストが17年に他社に先駆けて発売した携帯型翻訳機のポケトークシリーズは、翻訳機市場で高いシェアを獲得し、22年に累計出荷台数100万台を突破した。今や翻訳機の代名詞的な存在になっている。

 POMの販売でもその再現を狙う。販売台数の目標は、29年度末に100万台だ。25年に75歳以上の後期高齢者が2200万人を超えることを考えると、現実味のある目標と言えそうだ。