「カメラなし」で一人暮らし高齢者見守り 心拍数も検知

2023年08月13日日経新聞


ソースネクストと米スタートアップ、Tellus You Care(テラス・ユー・ケア)は、一人暮らしの高齢者を見守るための新サービスを始めると発表した。「ミリ波レーダー」でベッドからの起き上がりなどの動きを検知し、あらかじめ登録した家族のアプリに情報を送る。プライバシーを保ちながら高齢の親を見守りたい子らの需要を見込む。

対象物の位置や動きの速度、方向を感知するミリ波レーダーを搭載した専用の機器「POM(ポム)」をテラスが開発した。寝室の壁に取り付けて使う。一人暮らしの高齢者の部屋につけ、ベッドに入ったり起き上がったりしたタイミングから睡眠時間を算出したり、胸部の動きなどから心拍数を測ったりできるという。

Wi-Fi機能を内蔵しており、データをサーバーに送る。対象者の生活リズムを学ぶ独自開発の人工知能(AI)でデータを解析し、「睡眠時間が通常より2時間少ない」「真夜中にベッドに戻っていない」などの異常な動きがあった場合、あらかじめ登録しているスマートフォンのアプリで通知することができる。
9月30日までの期間でクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売を始めた。早割を使わない場合の機器の価格は3万9800円で、月1980円の利用料がかかる。

日本では2025年に後期高齢者が約2200万人に達する見込みだ。介護人材は不足し、必要な人員に対して30万人以上足りなくなるという。

一方で、施設に入るよりも自宅で高齢期を過ごしたいと考える人は多く、一人暮らしの高齢者のケアは大きな課題となる。

同時に、離れて暮らす親を見守りたいという子世代の需要も高まるとみる。両社によると、既存の見守りサービスは「カメラ」「センサー」「通報ボタン」の3種類に分けられる。ポムはカメラを使わないため、プライバシーを保ちつつ、リアルタイムで高齢者の状況が分かるのが特徴という。

販売を担うソースネクストの小嶋智彰社長は「高齢者本人も、見守る子や孫も互いに安心できてスマートに課題を解決できる」と強調した。テラスのタニア・A・コーク最高経営責任者(CEO)は「家族が安全に老後を自宅で過ごせるように開発した」と話す。将来はトイレなど寝室以外の場所での活用も展開していくという。

「『安心』を届け、たくさんの家族助ける」

タニア・A・コーク最高経営責任者(CEO)は祖母を介護した自身の経験をもとにPOM(ポム)を発案し、ケビン・シューCTOとともに2017年にテラス・ユー・ケアを起業した。経緯や今後の展開について聞いた。

――サービスのアイデアは自身の経験が基になっているそうですね。

「小さい頃一緒に住み、育ててくれた祖母は私にとって特別な存在でした。その後祖母は私たちの家から車で15分ほどの場所で一人暮らしをしていて、母は祖母が心配で旅行もままならない状態でした」

「祖母は少しだけ認知症が始まっていました。電話したことを忘れていたり、母が持っていった食事がそのまま冷蔵庫に残っていたり。施設に入ってもらうことも検討しましたが、祖母はとても独立心の強い人で、自宅にいたいと。母も、祖母を施設に入れたくないと」

――POMのアイデアはいつ思いついたのですか。

「私は何かしらヘルスケアで起業をしたいと考えて、グーグルで働いたあと、スタンフォード大の大学院に入学しました。最初の起業のクラスで、共同創業者のケビンに出会いました。ケビンも祖父母を介護した経験があり、ヘルスケアに興味を持っていました」

「17年2月、大学のキャンパスのカフェで、ケビンが『レーダーってすごく昔からあるけど、進歩していてヘルスケアに使えるんじゃないかな』と言いました。当時、ウエアラブル端末はありましたが、レーダーならば身に着けなくても状態が分かると」

「祖母が夜中にトイレで転んで起き上がれず、電話に出られなかったことがありました。祖母の反応がないので、母から『準備して』と言われ、一緒に祖母の自宅に行って、本当に恐る恐るドアを開けたという経験がありました」

「そのときは、転んだものの無事だったのですが、とても怖かった。別の時にも電話に出ず、同じように祖母の家に駆けつけました。そのときは寝ていただけだったのですが、これらの記憶が呼び覚まされたんです」

「母は常々、『あなたがこの課題を解決してよ』と私に言っていましたが、私はこの瞬間までは消費者としてしか考えていなかった。この時初めて、起業して、課題が解決できるのではと思ったんです。その夜は眠れなかったことを覚えています」

――なぜ最初に日本でローンチするのでしょうか。

「人口動態として高齢者が多く、ケアワーカーが不足するという課題を抱えている。また、生成AIならシリコンバレーへというように、高齢化社会についてのビジネスをするなら日本に、というのは世界の共通認識なのです」

――自身のミッションは何ですか。

「『安心』を届けることによって、できる限りたくさんの家族を助けたい。それも、お金持ちではない普通の人でも使えるようにすることで応援したいと思っています。それは私や祖母が置かれていた状況と同じだからです」