「AI介護」導入広がる 歩行分析、見守り… 現場「人員削減なら本末転倒」

2023年07月07日東京新聞


 人工知能(AI)を使った機器を導入する動きが、介護現場でも広がってきた。転倒防止のための歩行分析や施設での見守りなどを担わせ、高齢者の日常生活動作を向上させ、職員の負担を軽減することなどが狙いだ。人手不足を背景に国は介護ロボットや情報通信技術(ICT)の導入に前のめりだが、「導入で人を減らせるわけでない」などと抵抗感を示す事業所も多い。

 「客観的に体の状態を教えてくれるから頼れる」。五月半ば、神奈川県藤沢市のデイサービス「ニッショウスマイルステーション湘南台」に通う坂本五男(かずお)さん(79)が笑顔を見せた。AIで歩行状態を分析するアプリ「CareWiz(ケアウィズ)トルト」で、昨年十二月に指摘されたふらつきが三カ月後に解消されたという結果が出たからだ。

 運動が中心のデイサービスで、要支援2の坂本さんは週二回、午後の三時間で歩行訓練や筋トレなどをしている。心臓病などを抱え転倒リスクがあるが、「そう言えば風呂に入る時もふらつかない」と自信につながったようだ。

 この施設がアプリを導入したのは昨年四月。利用者が約五メートル歩く様子をスマートフォンのカメラで動画撮影するだけで、数万人の高齢者の歩行データと理学療法士の知見を学習したAIが分析。数分で、速度、リズム、ふらつき、重心の左右差の四つを点数化し、改善に向け「膝伸ばし」「かかと上げ」などお勧めの運動も表示される。利用者百十人に行う三カ月に一度の体力測定に合わせ、動画を撮影している。

 分析の結果は家族、ケアマネジャーとも共有。所長の鈴木友範さん(43)は「利用者が自宅で運動するきっかけになり、お互いのコミュニケーションの道具になる」と利点を強調。一方で、「AIは機械なのであくまで参考扱い」とも話す。

 東京都渋谷区の有料老人ホーム「トラストガーデン常磐松」では、四月からAI搭載の米国製「アイオロスロボット」が夜間に廊下を自走して、手すりなどの除菌や巡視をしている。

 夏には、了解を得た入居者の居室扉を開け、ベッドからの転落など赤外線カメラで異常を検知した場合は、職員に即時通報する仕事もさせる予定だ。神屋雅俊支配人(38)は「人手不足を見据えてロボットでできる業務を切り分け、職員の負担を軽くして入居者と関わる時間を増やしたい」と話す。

 介護現場では、このほかにもAI搭載のセンサーやカメラを使った入居者の見守りや健康状態の把握、AIを活用したデイサービスなどの送迎計画の作成、ケアプランの作成支援などが実用化されている。ただ、導入費用が高額で使いこなすのが難しいとの指摘もある。

 厚生労働省はICTの活用などが進んだ施設で人員配置基準を緩和する方向で検討している。だが、老人福祉施設の関係者でつくる団体が昨夏、全国の特別養護老人ホームなどの施設長を対象に行った調査では、「ICTで職員が減るのは本末転倒」「介護は人間対人間。細やかな心配りが必要」などの声も目立った。

 介護現場にあるAIなどへの抵抗感について、医療系AIの開発などを手がけるヒューマノーム研究所(東京)の瀬々(せせ)潤社長(46)は「例えば、ベテラン介護職の技術や視点を伝授する人材育成のAIなら受け入れられるのでは。よりよい介護のため、AIは開発者と介護職が一緒に作るという意識を広げたい」と話している。