「ペットと暮らす」高齢者を支援 見守りも 京都で実証実験

2023年06月02日産経新聞


年をとっても安心してペットと一緒に暮らしたい-。そんな高齢者の願いをかなえてよりよい生活を送ってもらおうと、京都市が民間会社と提携した実証実験を始めた。背景にあるのは、高齢の飼い主の体調不良や死亡を理由に、施設に引き取られる犬や猫が増えている現状だ。高齢者にとってペットと暮らすことは精神的・身体的にメリットが多いとされるが、不慮の事態が起きるリスクも避けられない。そんな状況を打破し、高齢化社会に対応した仕組み作りに取り組む。

事業は「飼い続ける支援・飼い始める支援」。今回は猫に特化し、関西圏を中心に猫専門のサービス事業を展開する「ねこから目線」(本社・大阪市、小池英梨子代表)と提携した。

「飼い続ける支援」は主に猫を飼っている高齢者が対象。月に1回、登録した利用者の自宅にペットヘルパーを派遣し、猫のトイレ掃除や爪切り、ペットフードの買い出しといった世話を代行する。

特徴的なのは、飼い主の見守りサービスも兼ねていることだ。希望があれば、猫と飼い主の様子を、離れて暮らす家族や友人に写真付きで報告(リポート)する。さらに、飼い主が病気になったり入院するなどで、飼い続けることができなくなった場合には、引き取り先の調整なども請け負う。

基本料金は移動費を含め月額3000円(15分)、半年契約(1万8000円~)から。提供エリアは京都市内で、同社の京都事業所(京都市)が担当する。

不測の事態に備え

「10年ほど前には犬猫の引き取り理由のうち『飼い主の体調不良・死亡』が3割ほどだったが、令和元年度には約5割に増えた。早急に取り組まなければならない社会の課題です」と警鐘を鳴らすのは、獣医師で3月まで市動物愛護係長だった河野誠さん。その後の調べでも2年度には約7割に増えた。

今回、市が社会の課題を投げかけて民間企業の参加を募る仕組み「KYOTO CITY OPEN LABO」を通じて募集したところ、同社が応募して事業化。夏頃をめどに成果をまとめ検証する予定だ。

ペットを取り巻く環境は近年、大きく変化している。平成25年の動物愛護管理法の改正以降、全国的に行政の犬猫の引取数は減った。飼い主はペットの終生飼育に責務があるとし、自治体は引き取りを拒否できるようになったためだ。

京都市でも引取数全体は減少しているが、一方で、やむを得ない事情で飼えなくなった犬猫の引取数数は28年ごろから上昇に転じ、理由のうち「飼い主の体調不良・死亡」が急増した。

実際、高齢の飼い主が世話ができなくなったり、ペットだけが家に取り残されたりするケースがあり、現場の社会福祉関係の職員がやむなく対応することが増えたという。

猫特有の背景も

「同じペットでも、屋外に散歩に出る犬とは違い、室内で飼われる猫はその存在が可視化されにくい」という小池代表。特に一人暮らしの高齢者の場合、飼い主が認知症を発症したり、突然亡くなったりして初めて飼い猫の存在がわかるケースも少なくないという。

「そうならないためにも事前の準備が大切。ヘルパーが定期的に訪問することで家の状況を把握し、ペットが他の人間に慣れる機会を増やす。万が一、飼い続けられなくなっても猫の性格を把握していれば譲渡がスムーズにいくことが多い」と話す。「譲渡」とはいえモノではない、生き物ゆえの難しさがそこにあるというわけだ。

サービス利用を始めた伏見区の女性(79)は「自分にもしものことがあったら最後まで面倒をみることができないと不安だったので利用を決めた。これで安心できるし、こうしたサービスがあることを他の高齢の飼い主にも知ってもらいたい」という。

飼いたい人も支援

同社ではさらに先のサービスも。高齢者向けの「飼い始める支援」だ。ペットを飼いたいと考える高齢者は少なくないが、「高齢」「一人暮らし」などの壁がある。保護施設の譲渡会などでは一定の年齢制限があり、高齢者は譲渡が受けられないことが多い。そのため、ペットショップへ流れる場合もあり、「当然ながらペットショップで手に入るのは子犬や子猫です。15年後、高齢者が高齢ペットの介護をすることになる」と小池さんは指摘する。

そこで「飼い始める支援」では、希望する高齢者の生活環境などを把握した上で、提携する複数の保護団体から譲渡候補の猫を紹介。面会など段階を経て譲渡成立、その後の飼育サポートへとつなげる。同社のペットヘルパーサービスを利用するのが条件だ。

「高齢者が猫を飼う場合、まだ性格が安定しない子猫より、落ち着いた成猫の方が相性がよく飼いやすい。高齢でもペットと暮らす生活をあきらめなくていいような社会をめざしたい」と小池代表。不定期で開いている説明会などでは「犬のサービスはないのか」といった質問や、京都市以外での問い合わせも多く、高齢化社会でのニーズに手応えを感じている。