家庭の電力データから健康見守り、北海道沼田町で実証実験

2023年05月25日新・公民連携最前線


 奈良県立医科大学発のベンチャー企業であるMBTリンク(奈良県橿原市)と、東京電力グループのエナジーゲートウェイ(東京都港区)は、北海道沼田町でICT(情報通信技術)を活用した地域住民見守りシステムの実証実験を実施し、家庭の電力データを活用することで健康を見守り、行動変容を促すのに有効であることを見いだした。2023年5月16日に成果発表を行った。

 実証実験は2019年から約3年間実施し、主に50~60歳代のミドルシニア世代約25人の沼田町民が参加。ICTデバイスなどを活用して個人の健康、生活、行動、嗜好などに関するデータを収集し、医学的見地を生かしながらデータ相互の相関関係や意味を解析。それらが健康増進および予防の促進に寄与することへの検証を行った。さらに、ICTデバイスの使用が自身の健康づくりに対する動機付けの手段になるかどうかも検証した。

 家庭の電力使用データをライフスタイルスコア(LSS)として、生活スコア(エアコン、テレビ、待機電力など)、食事スコア(電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器、IHなど)、活動スコア(洗濯機、掃除機、高電家電など)の3つのカテゴリーに分類し、1分単位で計測。それそれの家電の電力消費について、発生頻度、行動周期性、実施時間帯など過去実証データを基に客観的評価を行い、0~100点でスコア化した。スコアが大きいほど規則正しい健康的なライフスタイルであることを示す。

 電力使用量をモニタリングすることで、その住民の日常行動を分析できる。例えば、家電の使用状況から朝何時ごろ起床し、睡眠時間が何時間かなどが分かる。また、夜中に電子レンジを使っていれば、夜中に食事をしていることが分かる。こうしたデータの変化を見ることで「未病」や「認知症」の兆候を捉え、住民に通知して行動変容を促す。
 3年間の実証実験の結果、食事スコア、活動スコアに影響が出た後に生活スコアに不調が及ぶことが分かり、不調に向かう人の予兆観測が可能になった。特に活動、食事スコアの急激な低下、低スコアが続く人は要注意で、寝たきりや認知傾向が進んでいる可能性があり、本人・家族への通知が必要になる。

 また、活動スコアが常に一定数より低い人は衛生面のサポートが必要で、第三者の介入が望ましい。体調の不調傾向がある、自宅にゴミが多い、掃除ができていない、衛生面で問題があるという状況で、自治体との連携が必要になる。一方、LSSが3カ月継続して上昇している人は、体調回復、健康改善、不調改善傾向が強かった。体調不良の早期把握率は83%だ。

 参加者アンケートでは、「自分でも気が付かなかった季節によるライフスタイルへの影響、変化を知ることができ、自分の生活改善点が分かった」「LSSに加え、食事、活動、生活スコアが分かり、スコアの低い行動においては、規則正しい生活をより心掛けるようになった」「スコアが良いことが分かり、日々の生活に自信が持てた」といった声があり、生活改善へのきっかけとなっていることがうかがえた。

 また、遠方に住む家族からは「高齢者の家族が、アプリを通じて親のライフスタイルを確認することができて安心する」「認知傾向を心配しているが、客観的に各スコアを通じ影響度を把握できるため大変参考になる」など、好意的な意見が寄せられた。
 MBTリンクは、「0次予防」の知見の社会実装を目指し、地域での実証実験を企画した。実証実験のパートナーとして、一般社会法人北海道総合研究調査会(HIT)が研究を行っており、町ぐるみでICTを活用した健康見守りに取り組む沼田町と提携し、2019年から実証実験をスタートした。

 スタート当初は、生体および環境計測器などから400項目ものデータの収集・蓄積・分析し、必要な項目を絞り込んでいった。しかし、健康づくりへの意識の高い町民でも日常的に生体データを取ることは難しく、抵抗なく計測できるデータを探索した結果、2020年から電力データを軸としたサービスを開発・提供するエナジーゲートウェイが実証実験に加わった。エナジーゲートウェイの家電分離技術は、30分程度で設置できる電力センサー1台から主要家電の使用状況を把握できる。

 今後は、2023年から積極的に見守り支援事業の展開を実施する。自治体だけでなく、民間企業や他大学との共同研究も予定する。自治体では、沼田町では高齢者住宅に実装するほか、北海道更別村、福島県伊達市、長野県売木村で連携事業を推進、他県でもサービス展開する予定だ。