介護の見守り支援機器 使う高齢者施設は3割 厚生労働省調査…導入が進まない理由は

2023年05月17日読売新聞


 高齢者施設の利用者の就寝状況などをセンサーで把握する見守り支援機器の導入が3割にとどまることが、厚生労働省の調査で分かった。介護現場の担い手不足による業務の負担を緩和するため、ICT(情報通信技術)の活用といった効率化が求められているが、導入費用などが課題となっている。

使用「ほぼ毎日」91%

 調査は2022年10~12月、特別養護老人ホームやグループホームなどの入所施設9736か所に実施し、2958か所から有効回答を得た。

 ICTや介護ロボットの導入状況を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは見守り支援機器の30%で、入浴支援機器は11%だった。職員がマイクで音声を吹き込むと、AI(人工知能)が自動的に介護記録を作成するといった業務支援機器は10%だった。

 見守り支援機器を導入した事業所の使用頻度は「ほぼ毎日」が91%と高かった。

 静岡市のグループホーム「スマイル住まいる大岩」は20年に見守り支援機器を導入した。ベッドに設置したセンサーで利用者の心拍数や呼吸数を計測して眠っているかどうか判定し、事務室のモニター画面に表示する。

 管理者の杉山里美さん(42)は「導入前は、決まった時間におむつ交換をし、寝ている人を起こすこともあったが、今は目覚めている時にできる」と話す。21年には業務支援機器を導入し、従来は手書きだった介護記録の作成の時間が短縮された。「残業が減り、利用者のケアにかけられる時間が増えた」という。

 東京都渋谷区の「 杜もり の風・上原 特別養護老人ホーム 正吉苑しょうきちえん 」は、利用者が歩く様子を撮影した動画を基に、左右のふらつきや速度などをAIで解析するシステムを導入。転倒予防のリハビリや、介助の注意点に関する職員の情報共有に役立てている。

「費用高額」回答多く

 一方、調査では、こうした機器を導入しない理由として、「費用が高額」との回答が目立った。「職員が使いこなせるか不安」との声もあった。見守り支援機器の導入費用の平均額は、施設の規模によって約300万~700万円と幅がある。国の補助もあるものの、こうした負担が普及の妨げになっているようだ。

 厚労省の推計では、介護現場では40年度に69万人の担い手不足が見込まれる。三菱総合研究所の藤井倫雅・主席研究員は「人材不足の中で介護の質を維持するのにICTなどの導入は欠かせないが、事業者の費用負担は大きい。事業者の取り組みを、国はさらに支援するべきだ」としている。

 東洋大の高野龍昭教授(介護福祉学)は「ICT化を進めることで、より良いケアを提供する時間を増やせるという利点を、経営者側が職員に丁寧に説明し、計画的に機器の導入を進めるべきだ。若者たちはデジタル技術を使い慣れており、若手を採用する上でも有利になるはずだ」と語る。

■ICTや介護ロボットの活用に消極的な理由

導入費用が高額
職員が機器を使いこなせるか不安
どのような機器が有効か情報がない
維持管理が大変そう
個人情報保護で不安がある
(厚生労働省の調査から)