東電や中部電、電力データ活用 高齢者見守りや省エネに
2023年04月13日日経新聞
東京電力ホールディングスグループや中部電力などが家庭や企業から集めた電力データを本格活用する。地域の二酸化炭素(CO2)排出量の把握や高齢者を見守るサービスを進める。電力データは生活パターンをほぼリアルタイムに把握できる。これまで包括的な利用が進んでこなかったが法改正で活用が可能になった。位置情報などのビッグデータと連携が増えれば生活が便利になり、新たな消費の創出につながる。
東京電力パワーグリッド(PG)や中部電、関西電力送配電、NTTデータが出資するGDBL(東京・千代田)が、全国の自治体を対象に地域のCO2排出量を可視化するサービスを始める。4月から実証を始め、10月から首都圏を皮切りに本格的に展開する。基本料金で年300万円程度かかり、機能や利用量に応じて追加課金する。
電力使用量を地域単位で分析し、125メートル四方の広さから排出量を割り出す。排出量は電気の使用量に排出係数を掛ける形で導き出す。住民から同意を得て、家庭ごとの排出量の増減を把握できるアプリも提供できる。
排出量は国が事業者などからの報告を基に推計しており、全国の正確な実態把握は難しかった。地図データに落とし込み、一目で比べられるようにする。自治体は脱炭素の進捗に応じて、省エネを促すキャンペーンなどを展開できる。家庭でも排出量を見える化することで、CO2削減の意識が高まるとみる。
中部電は電力データを自治体向けに高齢者の見守りサービスにも生かす。4月から長野県松本市などに限り提供し、10月から本格的に始める。家庭での30分単位の電力データを毎月分析し、生活パターンを把握する。外出頻度や睡眠時間などを人工知能(AI)で分析し、異変があれば自治体が声かけを行う。100人を見守り登録する場合で、年118万円必要という。
家庭の電力データをつぶさに把握できるのは、全国でスマートメーターと呼ぶ電気のデジタル計測器の設置が進んだからだ。電力の消費量を遠隔で把握でき、在宅の有無や人の流れなどを分析できる。2024年度までに設置が終わり、設置数は全国で約7800万台に達する。
国は電力データの活用を進めるため、20年に電気事業法を改正して環境を整備してきた。指定を受けた一般社団法人の電力データ管理協会(東京・千代田)がデータ管理を担う。消費者の同意がないデータは外部に提供しない。送配電会社から集めたデータは匿名化するなど加工し、提供先の管理体制も審査する。
10月からは情報管理体制などで一定の基準を満たす企業は電力データを扱えるようになる。電力データの全面解禁を受けて、電力会社以外も動き出す。
東京大学発スタートアップのヒラソル・エナジー(東京・文京)は太陽光パネルの故障の探知に活用する。発電量から故障の有無を推測して割り出す。施工管理システムなどを手がけるリバスタ(東京・江東)は、工事現場で電力使用量からCO2排出量を推計するサービスを始める。
電力データは全国一律で取得が可能で、使用量や商圏などの条件で抜き出したり、過去の統計情報にもアクセスしたりできる。金融や自動車、宅配など幅広い業界での利用が期待される。
生活にかかわるビッグデータには、他にスマートフォンの位置情報や水道、ガスの使用量などがある。こうしたデータを掛け合わせることで、新たな市場の創出につながる。例えば、コンビニエンスストアが電力データや位置情報から周辺住民の帰宅時間を推測し、ピンポイントで商品を値引きできる。
電力データの提供を受けるには電力データ管理協会の会員となる必要がある。会費は扱える電力データの内容によって異なり、年20万〜60万円ほどかかる。利用数に応じた費用も生じる。例えば、1万件のデータを1年間使うと年300万円ほどになる。
ビッグデータの活用は大企業で広まっているが、高額なため利用するのにハードルが高い点が問題となっている。利用者が増えれば、より安く料金を抑えられる可能性がある。情報管理の質は落とさずに、電力データを含めたビッグデータを早く低価格化できるかが、データ社会を根付かせる上で重要となる。