見守り用途で人気のGPSトラッカー、スマートタグのような悪用を防げるか
2023年02月20日日経XTECH
GPSとモバイル通信を用い、スマートタグより精度の高い位置取得が可能な小型のGPSトラッカーが、主に子供の見守り用途として人気を高めている。様々な新製品が投入され市場が広がりつつある一方、シンプルな機能だけに違いを出すのが難しいなど、課題がいくつかあるように感じる。ソフトバンク系であるBBソフトサービスの「+Style(プラススタイル) まもサーチ3」の発表内容から、現状や課題を検証していこう。
IoT向けLTEを活用し小型・低価格化を実現
米Apple(アップル)が「AirTag(エアタグ)」を投入したことで、大いに注目を集めたスマートタグ。主として鍵やかばんなどに付けておき、Bluetoothなどの無線通信を活用しスマートフォンと連携して、紛失などの防止に役立てられる。比較的安価ながらも位置が分かるため、利用シーンが広がり人気が高まっている。
だがスマートタグの多くは、近くにあるスマートフォンとBluetoothで通信した際に、個人情報に配慮した形でそのスマートフォンの位置情報から自身の位置を推定する仕組みだ。それゆえ対象となるスマートフォンを持つ人が多く存在していないと正確な位置情報を得るのは難しいし、スマートフォンを持つ人がいなければそもそも位置情報の取得自体ができない。
そうしたことからGPSとモバイル通信を活用し、デバイス単体でより正確な位置情報を取得できるGPSトラッカーには、スマートタグの代替として関心が高まりつつある。こうしたデバイスは自動車の盗難防止用などとして古くから提供されているが、以前はサイズも大きく毎月の通信料もあまり安くなかったことから企業での活用が主だった。
だが低速ながら消費電力が少なく長時間通信ができる「LTE-M」など、IoT向けのモバイル通信規格の利用が広まり小型化と料金の低廉化が進んだ。それゆえ最近では、子供の見守りなどを主な目的とした小型・低価格のGPSトラッカーが増えつつあるわけだ。
その背景にあるのはやはり、子供などが自分の知らない場所に行ってしまい犯罪やトラブルに巻き込まれることへの不安だろう。2023年2月9日にBBソフトサービスが開いたGPSトラッカーの新製品発表会において同社取締役執行役員 プラススタイル事業本部 本部長を務める近藤正充氏は、令和3年(2021年)の行方不明者はおよそ8万人に上り、中でも10〜20代と70代以上が多くを占めていると説明した。
それゆえ同社が新たに発売するGPSトラッカーである+Style まもサーチ3は、主として見守りニーズが高い小学生、そして行方不明者の中でも比率が高い高齢者を主なターゲットに製品を提供するとしている。
機能やデザインで差異化が難しいGPSトラッカー
ただ見守りを目的とした小型GPSトラッカーは、持たせた人の測位が主な目的であり求められる要素がシンプルなことから、機能的に他の製品との差異化がしにくいという課題がある。+Style まもサーチ3も仮想的に設定した特定の範囲(ジオフェンス)を出たら通知する機能や、ボタンを押すと通知が届く「現在地発信」などの機能を搭載しているが、同種の機能は他のGPSトラッカーにも存在することから決定的な差につながりにくい。
測位に関しても、GPSに加えWi-Fiの電波、そしてモバイル通信の基地局の位置情報を活用して精度を高めるケースが多く、こちらも違いを出しにくいようだ。デザインも汎用性を重視してか、白を基調としたシンプルなデザインのものが多く、個性を打ち出しにくい印象を受ける。
では+Style まもサーチ3はどうやって差異化を図ろうとしているのだろうか。1つは基本性能である。実際+Style まもサーチ3は、IoTBankという企業が提供していた前機種「まもサーチ2」からサイズを大きく変えることなく、3〜4分ごとに測位する「バッテリーの持ち優先モード」で最大2カ月と、バッテリー持続時間をおよそ2倍にしているという。
そしてもう1つは専用アクセサリーの提供だ。近藤氏によると最近の小学生はランドセルの色が豊富なことから、ランドセルの色に合わせたいというニーズに応えるべく10色の専用ソフトカバーをそろえた。GPSトラッカーのデザインは没個性的で違いを見いだしにくいだけに、カラフルで選びやすいアクセサリーをあらかじめ用意してユーザーのニーズに応えたといえる。
さらに今後は小学生向けだけでなく、高齢者向けや自動車、ペットなど用途に応じた専用のアクセサリーも提供する予定だという。アクセサリーを豊富に取りそろえることで用途を広げ、利便性やファッション性で他社製品との差異化を図りたい考えのようだ。
問われる悪用防止の取り組み
BBソフトサービスでは+Style まもサーチ3の発表と同時に、AirTagと互換性のある安価なスマートタグ「+Style まもサーチTag」も同時に発表している。こちらは見守り用途よりもむしろ、紛失防止用のタグという位置付けだとみられる。同社は「+Style」ブランドでIoT製品を市場に多く投入しているが、スマートタグやGPSトラッカーのいずれもラインアップを増やし、力を入れていこうとしている様子を見て取ることができる。
将来的には、+Styleブランドで提供されている他のスマートホーム関連商品との連携も進めていきたい考えのようだ。GPSトラッカーを使えば、従来スマートフォンがなければ取得できなかった位置情報をサービスに活用できるだけに、子供の見守りと生活の利便性を両立する機能やサービスを創り出せる。
ただそうした期待の一方で、位置情報を手軽に取得できるという利点の悪用が、今後課題として浮上してくるかもしれない。すでにスマートタグではそうした問題が顕在化しており、勝手に他人の服やかばんなどに入れるなどしてストーキングに用いられるケースが世界的に増えているほか、窃盗目的に高級車に取り付けるなどのケースも見られるようになってきたからだ。
もちろん契約不要で利用できるスマートタグとは違い、契約して毎月料金を払う必要があるGPSトラッカーは利用者が特定されやすい分、悪用しづらい部分もある。ただ非常にコンパクトでより正確な位置を取得できるメリットがあるだけに、今後何らかの形で悪用されるケースが出てこないとは限らないだろう。
手軽に位置情報を取得できる特徴はメリットである一方、デメリットに働く部分もある。今後こうしたデバイスを、子供の見守り以上の用途に広げ市場を拡大させていくには、デメリットをいかに抑えるかという取り組みも求められることになりそうだ。