おひとりさま“もしも”への準備はどうする? 相談増える“尊厳信託”
2021年12月03日AERA dot.
首都圏のある特別養護老人ホーム(特養)で暮らすA子さん(80代)は、“もしも”の時に備えて元気なうちに準備をしていたことで、安心して余生を送れている。
独身で後継ぎもおらず、親が建てた一軒家で生活していた。両親を看取ってからは週1で銀座や日本橋のデパート巡りを楽しむなど、アクティブに過ごしていた。そんな中、数年前、突然のアクシデントに見舞われた。
いつものようにデパート巡りに出かけた時に、過って地下鉄のホームから転落してしまったのだ。電車が通過した後だったため命に別条はなかったが、腕と足を骨折し、脳挫傷を負ってしまった。
A子さんは、「緊急連絡カード」を携帯していたため、事故処理をした警察がカードに書かれた身元保証人に連絡をしてくれた。保証人が入院の手続きを行い、医師や看護師とやりとりして、急場をしのいでくれた。
「A子さんは姉と妹がいましたが、両親を看取った後、相続をめぐって気まずい関係になり、音信不通になってしまいました。甥や姪にも世話になりたくないとの思いから、私どもの会社と“尊厳信託”を契約していたのです。療養中に適切な判断ができなくなったA子さんに代わって、私たちがあらゆる手続きを行う契約です」
そう語るのは、『家族に頼らない おひとりさまの終活~あなたの尊厳を託しませんか』(ビジネス教育出版社)の共著者で、OAGライフサポート代表取締役の太田垣章子さん。太田垣さんは司法書士として、多くの高齢者に寄り添い、サポートし続けている。
A子さんは、定期的な「見守り契約」と、将来判断ができなくなった時に備えて、入院時や高齢者施設への入居時に必要な「身元保証人」をお願いしていた。また、財産管理を行う「委任契約」、認知症になった時の財産管理等を行う「任意後見契約」、亡くなった後の手続きを代行する「死後事務委任契約」もセットで、太田垣さんの会社に託していた。
未婚や離婚に限らず、子どもと同居する世帯も減少していることから、頼れる家族がいないという人もいる。太田垣さんの会社にも“もしも”の時に備えようという人からの相談が年々増えているという。特に50代、60代と若い世代からの問い合わせもあるそうだ。
「A子さんは時間をかけて、希望する支援は何か、何度も話し合い、オーダーメイドの形で契約を交わしていました。最期まで自宅で過ごしたいと思っても、認知症になると在宅での生活は危ないので施設に入らざるを得なくなることもあります。そのような時の手配も行います」(太田垣さん)
A子さんは「甥、姪とは何十年も会っていないので頼りたくない」「できるだけ自宅で過ごしたい」という希望を持っていたが、脳挫傷の後遺症で、認知症が進んで転倒リスクが高まったため、特養に入居することになった。
その間、要介護度の認定や介護保険サービスを使うためのケアマネジャーやかかりつけ医との打ち合わせ、さらには、特養への入居手続きなども、すべて家族に頼らなくてもスムーズに行われた。
例えば、病気で入院した時だけでなく、高齢者住宅に入居することになった時にも、身元保証人は必要になってくる。
判断能力はあっても、足腰が不自由になった時、定期的な見守りをしてもらえると安心できる。また、金融機関での預金の引き出しや公共料金の支払いなどの財産管理もお願いしなければならないケースも出てくる。
「(1)自立期とフレイル期」「(2)認知症で判断能力がなくなった時」
「(3)亡くなった後」の三つの時期に分けて、自分ではできなくなりそうなこと、具体的に困ることを話し合いながら支援の内容を整理するといい。
中には認知症になる前に亡くなる人もいるので、(2)は任意後見契約をしても利用しないケースもあり、その場合、任意後見人や任意後見監督人への費用は発生しない。
(3)の死後事務委任契約の報酬には基準はなく、受任者(委託を受けた人)への報酬の相場は30万~50万円。ここに、遺品整理業者への費用など実費がかかる。お願いする業務が多いほど価格は上がるが、無事にお墓まで連れていってくれる。
エンディング期に託すことを事前に決めておけば、「自分らしさ」やその人の「尊厳」を保つことができる。そうした意味から、太田垣さんの会社では、オーダーメイドで行うサービスを“尊厳信託”と名付けたという。