自宅でも駐車場でも「オンライン診療」 便利でも利用増えない訳
2021年11月17日朝日新聞デジタル
インターネットを使って医師の診察が受けられる「オンライン診療」。新型コロナウイルス対策として、国が初診からの利用を特例的に認めてから1年半が過ぎた。第6波に備え、政府はオンライン診療・往診の体制構築を打ち出し、各地で独自の取り組みも始まっているが、さらなる普及には課題も残る。
通院不要「本当に楽」
「調子はどうですか?」。千葉県木更津市の宮沢茂松さん(73)はテレビ画面に映った医師にたずねられ、「胃の調子が悪くて」と応じた。
9月中旬、宮沢さんはケーブルテレビ大手J:COMの診療支援サービスを使い、初めてオンライン診療を体験した。地元のかかりつけ医と自宅をネットで結び、テレビにつないだウェブカメラを通じて会話。宮沢さんが医師に症状を説明し、後日、胃カメラの検査を受けることもその場で決まった。
宮沢さんの妻は脳卒中の後遺症で左半身にまひがあり、見守りのため自分の通院にも連れて行く必要があった。「通院の手間が省けて本当に楽だった。自宅にいて10分で診療が終われば時間を有効に使える。コロナ対策にもなるし、今後も利用したい」
同社がこうしたサービスを始めたのは今年7月。厚生労働省の検討会資料によると、今年4~6月にオンライン診療を受診した6875人のうち、61歳以上は832人で約12%にとどまった。高齢者のオンライン利用は伸び悩むなか、同社のケーブルテレビの加入者は半数が60歳以上で、潜在的なニーズがあるとして事業を始めたという。
発熱患者、車内と結び診察
コロナ患者との接触を避けるため、オンライン診療を利用する動きもある。
青森県八戸市の「はちのへファミリークリニック」では昨年10月から、発熱外来の患者を駐車場に止めた車で待機させ、タブレット端末を看護師が車まで届け、その場でオンライン診療を実施している。
事前に映像をつないだ状態で患者に端末を渡すため、患者側に難しい操作は必要ない。看護師は端末を届けた後すぐに車を離れるため、看護師側の感染リスクもほとんどないという。
この1年で1200件以上を実施したといい、小倉和也院長は「院内感染を防ぐための対策として非常に有効だ」と手応えを話す。
神奈川県立循環器呼吸器病センター(横浜市)はコロナの自宅療養患者へのオンライン診療を行った。患者の携帯電話にショートメッセージでURLを送り、クリックするとオンライン診療のシステムにアクセスできる。自宅療養者が増えた8月中旬~9月末にのべ64人に実施したという。
このように様々な取り組みが広がる一方、普及は思うようには進んでいない。
診療報酬の低さ、普及の壁に
従来の国の指針では原則として初診は対面診療とされてきたが、厚労省は昨年4月、初診でもオンライン診療を使うことを認め、自治体に通知した。当時、電話診療やオンライン診療が実施できるとして登録した医療機関は1万カ所程度だったが、この通知から2カ月後には1万6千カ所超に急増した。ただ、その後の登録数はほぼ横ばいで医療機関全体に占める割合は15%程度にとどまる。
政府が今月12日に公表した新たな新型コロナ対策の全体像でも、オンライン診療の取り組みを進めることが盛り込まれたが、さらなる普及には課題もある。
オンライン診療の普及促進などを目指す「地域スマート医療コンソーシアム」の竹内公一理事長は「ほとんどの医師はオンライン診療を使った経験がないため、利用に及び腰になっている」と話す。オンライン診療は対面診療に比べて診療報酬が低いなどの課題もあり、「医師側がオンラインの導入にメリットを感じる仕組みが必要だろう」。
その上で、通院の機会が多い高齢の患者を意識した取り組みも不可欠だと指摘。「デジタル機器が苦手な人たちが取り残されないよう、手厚くサポートすることが重要だ」と話す。
オンライン診療
自宅などから、インターネット経由で映像や音声をつないで医師の診察を受ける仕組み。対応している医療機関なら、スマホやタブレットなどを使って、待ち時間もなく手軽に受診できる。薬の処方箋(せん)を出してもらうこともできるが、触診ができないなどの制約があるため、状況に応じて対面診療に切り替える必要がある。国内では、厚生労働省が実施の指針を示した2018年から本格的に始まった。