ひとりで死ぬために必要な備え 「死後事務委任契約」とは?
2021年08月09日AERAdot.
「最期まで住み慣れた家で過ごしたい」と、「在宅死」を選ぶ人が増えている。家族がいなくとも家で最期を迎えられるそう。後悔しない「看取りへの備え」とは?
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もちろん「おひとりさま」でも在宅死を選択できる。
「オレは絶対に病院とか施設とか行く気はないから。畳の上で死にたいんだ」
と、『「在宅死」という選択 納得できる最期のために』(大和書房)の著者で、在宅医療専門医の中村明澄医師に訴えたのは、C男さん(当時98)。妻やきょうだいには先立たれて、子どもはいない。血縁の親族も近くにいなかった。
「介護保険サービスの利用は最小限にして、家に人が出入りするのは、できる限り少なくしたいというのが希望でした。『自宅で治療が受けられる範囲で治らないのならあきらめる』と病院の受診も拒否されました」(中村医師)
ほとんど寝たきりの状態になり要介護度は5になった。おむつを使用するようになっても、「最近のおむつは性能がいいんだ」と言い、使ったサービスは1日1回の訪問介護と、週1回の訪問看護のみ。
床ずれを心配して介護ベッドのレンタルを勧めても、「布団がいい」と拒否。本人の希望どおりに布団のなかで、眠るように息を引き取った。
翌日に訪問した看護師や介護職員が見つけるケースもあるが、ひとりで逝ったとしても「孤独死」ではないという。
このように、おひとりさまでも「在宅死」を選択することができるが、「亡くなった後の備え」が必要になる。
D子さん(当時75)は、姉と二人暮らしだったが、姉を看取った後、「姉は自分が看取ったが、自分はどうやって看取られるのだろうか」と不安に駆られた。
甥や姪は疎遠なので負担はかけたくない。そこで、「死後事務委任契約」を結ぶことにした。
死後事務委任契約とは、元気なうちに、本人が亡くなった後の「死後の手続き」のほか、葬儀、納骨などを第三者に委任する契約をいう。
「自分が死んだ後の『死後の手続き』は家族や親族がいる人はいいのですが、子どもがいない、兄弟姉妹や配偶者には先立たれて、離れて暮らす親族には頼めないという人が増えています。葬儀や埋葬や、死後の手続きを行う『死後事務委任契約』を結ぶと安心できます」
そう語るのは、D子さんを看取った司法書士法人ミラシア、行政書士法人ミラシア代表の元木翼さん。
注意したいのは死亡届。自治体に出す死亡届は戸籍法により提出する人は家族や親族、後見人などに限られているので、判断能力が低下したときに備える成年後見制度の「任意後見」と一緒に契約するのが一般的という。
「遺言書では財産の継承以外の死後の手続きについて記載しても、法的な拘束力はないので、遺言書と死後事務委任契約をセットで、公正証書によって作成します」(元木さん)
D子さんのケースでは、病気で入院したとき、病室での付き添いや医療費の支払いなどは元木さんが任意後見人として代行した。
いよいよ危篤の状態になったときに医師から連絡が入り、D子さんを看取った。亡くなった後から、死後事務委任契約の「受任者」として生前に契約で結んだ内容に沿ってさまざまな手続きを実行していった。
まず、葬儀会社の手配をして、「喪主代行」として葬儀の準備に取りかかる。事前に甥や姪、関係者のリストを作ってもらい、D子さんが亡くなったことを連絡して、葬儀から火葬、納骨するまで仕切った。その一方で、行政関係の届け出、電気・ガス・水道など公共料金の支払い停止、固定・携帯電話、インターネットプロバイダー、クレジットカードなどの解約をし、遺品整理の業者に連絡して家財を片付けて、自宅を家主に引き渡した。
気になるのは、これらの費用。死後事務委任契約は、決まった形式はないが、公正証書で交わすケースが多く、公証人の手数料が約2万円。
死後事務委任契約の報酬に基準はなく、受任者に支払う報酬の相場は30万~50万円。委任する業務が多いほど価格は上がる。このほかに、葬儀代や遺品整理業者などへの支払いが別途かかる。実費を含めてトータルで100万~150万円あれば、無事にお墓まで連れていってくれるのだ。
「受任者は弁護士や行政書士、司法書士など専門家に頼むと安心できるでしょう。ただし、先に受任者が亡くなったり、法人が倒産したりするといったリスクも考えられますので、報酬は生前ではなく、相続財産から支払うケースが安心です。
受任者は遺言執行者を兼務して、死後事務委任契約書に『死後事務の費用や報酬は故人の遺産を受け取る相続人や遺言執行者から支払う』などと明記しておくといいでしょう」(同)
住まいが賃貸ではなく、持ち家であれば売却手続き、車を所有していれば処分もする。
死後にどんな手続きが発生するのかは、その人の所有している物にもよる。「エンディングノート」などで、処分してもらいたいものや情報をまとめておくと、処分する費用がいくらかかるのか、目安にもなる。
お金をかけないで、なおかつ納得した最期を迎えるためにも、元気なうちから「終活」を始めておきたい。