「見守り」求める若者の実態 20代女性「安否確認が“心の安定剤”」

2021年07月13日AERAdot.


 孤独死の不安は、中高年や高齢者だけでない。「見守りサービス」を利用する若者が増えている。気軽に相談できる相手が身近におらず、助けを必要とする若者は少なくない。

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 人気俳優の深田恭子さん(38)が5月、突然の休養を発表。主演予定のドラマを降板するなど、世間を驚かせたのは記憶に新しい。医師から「適応障害」と診断されたのが理由だった。

「完璧主義のところがあり、能力と理想の差に思い悩むことが多かった」

 九州地方に住む20代女性Aさんも、この適応障害の経験を持つ。

 小さいころから“優等生”だったというAさんは、「他人に頼るのが苦手」。大学卒業後に公務員となり、安定した職に就いたことに両親も喜んだ。職場では明るく振る舞っていたが、仕事の悩みをどんどん抱え込んでいった。適応障害に陥り、休職を繰り返していたが結局、数年で退職した。

 人付き合いがほとんどなくなったAさん。「『死にたい』と思うなど精神状態がひどくなり、自分が何をするかわからない」。そんな思いを募らせ、見守りサービスを利用するようになった。「定期的に送られてくる安否確認のメッセージがしだいに“心の安定剤”となった」という。

 見守りサービスとは、NPO法人「エンリッチ」(東京都江戸川区)が無料で提供するLINEアプリ。安否確認メッセージが届いたら、それに応答するだけというシンプルなものだ。安否確認は好きな時間帯を設定でき、1~3日ごとに送ってもらえる。

 かりに安否確認に応答しないと、24時間後に再確認がいく。それでも応答しない場合、本人に直接電話し、応答がなければ事前登録した近親者や社会福祉関係者らの緊急連絡先に伝えてくれる仕組みだ。

 九州地方の別の20代女性Bさんも同じサービスを利用する。

 家庭内不和によって児童養護施設で育った。高校を卒業し、現在はアルバイトで暮らす。唯一の家族だった母親も精神疾患で施設に入所してしまい、身寄りがいなくなってしまった。「誰からも心配してもらえないという気持ちが少しずつ変わり、メッセージに安心感を得ている」(Bさん)

 エンリッチは2018年にサービスを始め、今春で40~60代を中心に約3千人が登録し、女性が6割を超える。30代以下も目立ち、全体の19%を占める。無料で提供しているのは、寄付金で運営されているからだという。紺野功代表は「本来は人と人がつながり、社会を支えるもの。だれでも簡単に利用できるようにしたい」と話す。

 見守りサービスは昔からあり、一人暮らしの高齢者を対象としたものが一般的だ。

 備え付けのカメラで離れて暮らす家族が確認できたり、緊急ブザーを押せば警備員が駆けつけてくれたりするサービスは知られている。トイレや冷蔵庫のドアの開閉を検知するセンサー機器を活用し、遠隔地にいる家族に安否を知らせるものもある。

 ただし、これらは有料なうえ、身寄りがいることが前提だ。孤独死の不安を抱えている若い世代にとってはハードルが高く、「求めているものとは違った」(関東在住の30代女性利用者)。

 昨年3月にできたNPO法人「あなたのいばしょ」(東京都港区)は、専用サイトのチャットで、頼る人がいない若者からの相談に応じる。件数は約1年でのべ約4万8千。20代以下がほとんどだ。相談者は二つに大別されると、理事長を務める慶応大生の大空幸星さんは指摘する。

 一つが、親からの虐待やいじめなど根本的な原因がある若者。その原因から逃れるために、死にたいと思うのだという。

 もう一つは、学校や家庭でも何となく居場所がなく、モヤモヤした気持ちから自分がいなくてもいいのではと思う若者。根本的な原因はなく、むしろいい子で周囲からは幸せそうに見えるそうだ。

「多くの相談者は死にたいと言う。話をしたことで、また生きてみたい、相談してよかったと言ってもらえた」(大空さん)

 厚生労働省の自殺者統計によると、コロナ禍の20年は10代や20代が前年比で大きく増えた。経済・生活問題や家庭問題などが深刻になり、うつ病などにも連鎖していると分析する。

 長年、電話相談を受けてきた「日本いのちの電話連盟」(東京都千代田区)によると、昨年1年間にあった相談は約52万8千件で、そのうち「自殺したい」と話すなど自殺傾向があると判断されたのが11.5%。フリーダイヤルの相談件数は10代以下が最も多い。

「悩み相談と心の対話の場所」を提供するNPO法人「東京メンタルヘルス・スクエア」(東京都豊島区)のカウンセリングセンター長、新行内勝善さんは、近年の変化を次のようにみる。

「昔は家族や親戚など人間関係が広かったが、いまは限られた人間関係になっています。友人関係も同様です。人に対して警戒する社会的な背景もあり、知らない人とは話さない社会状況があります。とくに若者は、友人同士で話はしても、(深刻な身の上)相談するという文化があまりないのではないか」

 相談者をみると、貧困など経済的理由というよりも、精神的に追い込まれたり、他に手段のなかったりする人が増えているようだという。「まじめで人に迷惑をかけてはいけないという教育を受けている人が、追い詰められて相談にくる」(新行内さん)

 孤立する若者も支援してきた「北海道セーフティネット協議会」(北海道釧路市)の高橋信也事務局長も、かつてのような家族や近所の人たち、友人などのつながりが薄れ、若者を支える安全網が脆弱(ぜいじゃく)になってきたと感じる。

「機能不全の家庭で育ち、虐待など暴力や抑圧状態に長くさらされると、精神的な安定を得られず、人間関係の構築が難しくなります。本当に支援を必要としている人に、いつも支援が届きにくいと感じています。精神疾患などで医療関係者につながったときに初めて支援が始まるといった事例をいくつもみてきました」

 だからとにかく、勇気を持って“SOS”を発してほしい──。とくにコロナ禍では、入学してもオンライン授業などが続き、知り合いや友人ができにくい環境にある。上の表を参考にして、悩みを抱え込まずに相談を。