ハードとソフトで日本発の第四世代「IoT家電メーカー」になる――Strobo 業天亮人代表
2021年06月27日BCN+R
今回取材したメイカーズは、IoT活用のホームセキュリティサービス「leafee(リーフィー)」を展開するStroboの業天亮人(ぎょうてん・あきと)代表だ。工事不要で月額980円から導入可能、センサーの反応をスマートフォン(スマホ)アプリでチェックできるという手軽さでマーケットの拡大を狙う。セキュリティという分野を深掘りし、新たなタイプのIoT家電メーカーを目指す業天代表に、東大のキャンパスにほど近い本郷のオフィスで起業のきっかけから今後の展望までを聞いた。
ホームセキュリティは富裕層だけのものではない
永守 業天さんは格安のホームセキュリティサービスを展開していますが、そこにはどんな狙いがあるのでしょうか。
業天 既存のホームセキュリティサービスの日本における普及率はおよそ3%です。導入時に工事が必要で、料金が月額5000~8000円ほどかかるため、一部の富裕層しか利用していないという現状があります。しかし、防犯は誰にとっても重要な問題です。例えば、独り暮らしの女性、あるいは賃貸住宅に住む人であっても、こうしたサービスを受けられるべきだと考え、廉価なホームセキュリティシステムとしてleafee(リーフィー)を考案しました。
永守 leafeeは、具体的にどのような仕組みですか。
業天 Bluetoothを使ったセンサーと、センサーの情報をクラウドに上げるゲートウェー(ハブ)、そして家庭にWi-Fi環境があれば利用できるシンプルな仕組みです。センサーは窓枠などに両面テープで貼るだけなので導入時の工事は不要で、このシステムにより、戸締り忘れや侵入者などの異常な動きをスマートフォンのアプリで確認することができます。また、インターネットを利用しない高齢者世帯などWi-Fi環境がない場合でも、携帯回線を内蔵しているモデルのハブがあるため利用は可能です。
永守 ユーザーはどんな方が多いのですか。
業天 世代は平均すると40代半ばぐらいで、女性の方がやや多いですね。導入目的として、防犯のほか、独り暮らしの高齢者の見守りのためという方が増えてきています。
永守 なるほど、ニーズは防犯だけに限られないわけですね。今、どのくらいのユーザーがいるのですか。
業天 台数にすると1万台以上です。今後の目標としては、2030年には100万世帯に普及させたいと考えています。
リアルな生活空間の問題を解決する
永守 ところで、そもそもどうしてホームセキュリティシステムに着目したのですか。
業天 実は私自身、防犯意識が低く、窓を開けっぱなしにしたり、鍵をかけないで外出したりして、妻によく怒られていたんです。ならば、そうした自分の身近な問題をIoTで解決できないかと思ったのがきっかけですね。
永守 生活に密着した問題から着想を得て開発につながったのですね。
業天 私は大学3年のときに学生起業し、スマホで家じゅうの家電を操作できるソフトウェアの開発を行いました。方向性の違いなどからその会社からは離れ、大学を卒業した後にStroboを創業するのですが、その際には、インターネットとソフトウェアでリアルな生活空間の問題解決を行いたい、という思いがありました。
永守 リアルな生活空間の問題解決ですか。
業天 はい。コミュニケーションやエンターテインメントなどの分野では、インターネットやソフトウェアは大きな変革や利便性をもたらしましたが、実生活を支える家電との接点はこれまであまりありませんでした。そうしたことに着目し、日本から新しい家電メーカーをつくりたいと思っているんです。
パナソニックは第一世代、ソニーは第二世代、ダイソンは第三世代
永守 それで、あえてハードウェアの世界に参入されたと。
業天 ハードもソフトもですね(笑)。
永守 事業展開するなかで、どんなことに苦労していますか。
業天 すべてが苦労ですが、やはりお金の苦労は大きいですね。まず、製品ができるまでに数億円はかかるわけですから。
永守 ハードウェアベンチャーの場合、製品をつくるまでの苦労が多すぎて、マーケティングをする余力が残されていないという話をよく聞きます。その点、どう考えられますか。
業天 leafeeの場合、ハードウェアは、他のスマートロック機器よりも設計がシンプルで、部品も少ないんです。つまりleafeeは、ハードそのものではなくソフトウェアの優位性によりその機能を実現できているのがポイントで、そこが価値となっているわけです。
ハードにかける資金が節減できれば、マーケティングやソフト開発にかける費用をそれだけ捻出できるので、企業としての生存率は高められていると思います。でも、大変なことには変わりありませんが(笑)。
永守 日本から新しい家電メーカーをつくりたいというお話ですが、今後、製品ジャンルを多角化していくということですか。
業天 いいえ、総合型の家電メーカーは目指しません。leafeeはセキュリティに関わる製品ですが、メーカーとしてセキュリティにこだわり、この分野の課題を深掘りしていきたいと思っています。現在の製品を発展させて、例えば、センサーで取得したデータからインシデントを発見し、110番や119番に電話することなく警察や消防・救急に出動を要請できるようなソフトウェアによる連携を目指しているんです。
永守 消費者のニーズが高度化しているなか、業天さんの言う「深掘り」は一つのキーワードかもしれませんね。
業天 私は勝手に「自分たちは家電の第四世代だ」と言っているんです。第一世代は戦前に創業した東芝、パナソニック、シャープなど、家電製品の力で家事の代行を実現させたメーカー。第二世代は戦後に創業し、情報技術やエンターテインメント分野を充実させたソニー。
そして、第三世代はダイソンやバルミューダなど、日常生活で使われる製品であっても、デザイン志向で上質なユーザー体験を提供するメーカーです。これらのメーカーも、製品ラインナップをいたずらに広げることなく、一つの分野を深掘りして付加価値を高めているタイプですね。
永守 それで「第四世代」の特徴は?
業天 家電にソフトウェアのテクノロジーを掛け合わせているメーカーです。海外では中国にシャオミという大手企業があり、フランスのウィジングスもヘルスケア分野で注目されています。ただ、日本にはそうしたメーカーはほとんどありません。
永守 ホームセキュリティのニーズやleafeeそのものを深掘りしていくことで、第四世代の家電メーカーとしての立ち位置を確保していくということですね。
業天 そうですね。でも、マーケットが伸びていない現状では、売れるものをつくるためには考え抜くことがとても大事になっています。ニーズに応えることがそのまま収益につながった時代もありましたが、今はそうした行動する力とともに、考え抜く力の両方が必要だと痛感しています。
永守 その難しい時代に、あえてメイカーズとしてやっていこうとする原動力はどこから湧いてくるのでしょうか。
業天 IoTという言葉がこれだけメジャーになっても、IoTに取り組むコンシューマー向けの家電メーカーは世界的にもほんの少ししかありません。だからと言って、日本でそれをやらず、中国やアメリカでつくった家庭用の製品を使えばいいかというと、そうではないと思うんです。
本当に日本人の生活に合った製品をつくれるのは日本のIoTメーカーであり、それは自分たちがやるべきだという使命感が、今につながるエネルギーになっています。
永守 ビジネスについて冷静に考え抜きながらも、それは熱い使命感に裏打ちされているというわけですね。今日は大変面白い話を聞くことができ、私自身、とても勉強になりました。今後のご健闘を心から期待しています。