単なる「見守りシステム」ではない、強みは科学的根拠との融合
2021年05月11日日経BP BeyondHealth
大阪市立大学医学部疲労医学講座発のスタートアップであるエコナビスタ。睡眠解析技術をベースとした高齢者見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」が好調な展開を見せており、2021年3月には社会福祉法人大手の聖隷福祉事業団にも採用が決まった。新たな展開として、同年2月には東京ガスと共に在宅介護向けへの事業にも乗り出したばかり。同社を訪問し、代表取締役社長の渡邉君人氏に話を聞いた。
起業のきっかけ
─介護現場の人手不足を解消するツールとして着想
エコナビスタは、大阪市立大学医学部疲労医学講座から始まったスタートアップ。同講座特任教授の梶本修身先生が、医療とテクノロジーをかけ合わせて社会課題を解決したいとの思いから創業した。
梶本先生は大阪大学医学部発バイオベンチャーの総医研ホールディングスの創業者でもあり、私は2000年代に脳機能検査プログラム「ATMT」を総医研と共同開発した。その技術をもとにした脳トレゲーム「アタマスキャン」は30万本以上のヒットを記録している。そうした背景があったため、一緒に事業を支えてほしいとオファーを受けてジョインした。
主力の「ライフリズムナビ+Dr.」は2016年にサービスを開始した。専門医である梶本先生が監修した、睡眠解析技術をベースとするクラウド型の見守りシステムだ。開発のきっかけは、梶本先生が仕事を抱えながらの母親の在宅介護見守りに限界を感じていたこと。当時は電気ポットのON/OFFによる安否確認などがあったものの、それだけでは厳しいと。そこでIoTを活用しながら見守りをカバーし、医療・介護現場の人手不足を解消するツールとして着想した。
私自身、大学院時代にITベンチャーを起業して長く代表を務めてきたので、経営のノウハウがベースにあったことも幸いした。何よりITの力を活用して新しい分野に挑戦してみたかったし、社会課題解決に直結する仕事に携われるチャンスにもやりがいを感じた。医学と工学とのかけ算で良質なプロダクトを生み出したいと考えている。
サービスの概要
─今後の科学的介護に求められる不可欠な要素になる
ライフリズムナビ+Dr.には2つの特徴がある。第1は室内に設置した非接触センサーによる見守りシステム。当初はベッドセンサーのみだったが、現場の意見を反映しながらセンサーや機器類を追加してきた。現在はベッドセンサー、人感センサー、温湿度センサー、ドアの開け閉めセンサーを基本パッケージとして、オプションでエアコン制御センサー、顔認証カメラ、居室内カメラなどを用意している。
これにより、入居者の様子を複合的に見える化する。管理画面では居室一覧やアラート履歴を見やすく表示。ベッドからの離脱、トイレや部屋の出入りといった“動き”にセンサーが反応し、リアルタイムで入居者の状況を把握できる。
クラウドサービスのため、仮に東京の施設を北海道から監視しても即座に通知が届く。通知の高速性、誤反応の少なさには非常に自信があり、導入検討でデモンストレーションを体感して驚かれる方々も多い。また、クラウドの利点を生かして常にサービスをアップデートして拡張できるのもポイントだ。
第2の特徴が、睡眠に対するこだわり。我々のベッドセンサーは睡眠時の心拍・呼吸をリアルタイムで取得し、睡眠の深さや質をデータとして蓄積できる。そのデータを大阪市立大学医学部疲労医学講座と共同開発した独自アルゴリズムで解析し、「疲労回復度」「快眠指数」「快適環境指数」からスコア化。まとまった時間で深い睡眠が取れれば高スコアになり、ほとんど眠れていない場合はスコアが低くなる。
従来のシステムでは睡眠時間という定量データしか収集できなかったが、ライフリズムナビ+Dr.では客観的な睡眠の質の評価が可能になった。さらにアナログの目視だけではフォローできない体動をキャッチすることで、夜間における安否確認の労力を大幅に削減できる。これらは、今後の科学的介護に求められる不可欠な要素になってくる。
サービスの現状と課題
─コロナ禍を機に導入を検討する施設が増加
ライフリズムナビ+Dr.はすでに80施設以上に導入され、利用者数は5000人を突破した。クラウド型の高齢者見守りシステムとしてはトップクラスの導入実績になる。これまでに住友林業、長谷工シニアホールディングス、ツクイをはじめ、2021年3月には社会福祉法人大手の聖隷福祉事業団にも採用が決まった。
新型コロナウイルス感染症で施設でも接触対応の削減を余儀なくされたが、もとよりライフリズムナビ+Dr.は非接触センサーのシステム。むしろコロナ禍を機に導入を検討する施設が増えた。感染症対策ばかりではなく、高い離職率に歯止めをかける介護現場の働き方改革ソリューションとしても注目されている。テクノロジーによってマンパワー不足を補い、働きやすい職場環境の実現に貢献するからだ。
課題は、自社の規模が事業成長のスピードに追いついていないこと。倍々ゲームのように人を増やしていく発想もあるが、もう少し賢いやり方があるのではないかと模索している。大塚商会やキヤノンマーケティングジャパンといった代理店の力も借りながら、販路の拡大と体制づくりに努めている。
また、導入したはいいが使われずにホコリを被ってしまうことのないように継続的なサポートも視野に入れている。そしていざ運用フェーズになっても、ひっきりなしに飛んでくる通知で“アラート疲れ”を引き起こしては意味がない。我々も事業を続ける中で、導入や運用の課題に対するノウハウを蓄積してきた。今後は技術面に限らず、コンサルティング面でもさまざまな提案をしていく。
自社の強み
─自社開発のために外部からのプレッシャーもない
我々の強みはきちんと現場で使える仕組みを提供していること。しかも利用者の声を随時拾い上げてアップデートし、成熟を重ねている。ITリテラシーの高低差がある介護現場でも使いやすいようにUI(操作性)や画面デザインも工夫した。
もう1つ、測定した詳細なデータを介護記録システムに自動連携できるのも強みだ。現在、ワイズマン、NDソフトウエアなど6社のシステムと連動済みで、手入力を自動化して業務効率化を図ることができる。その点が多くの施設に評価されている理由だろう。
加えて、医師ならではの視点をものづくりに反映している。単にIoTセンサーで見守りを提供する企業はたくさんあるが、科学的根拠に基づく疲労回復度や快眠指数を統合したサービスはない。自社開発のために外部からのプレッシャーもなく、風通しの良い働きやすさも影響していると思う。技術面を統括する安田(輝訓氏、エコナビスタ取締役)も昔からの仲間で、彼が優秀な人材を引っ張ってきてくれるのも大きい。
今後の展望
─在宅介護の見守りに対しても布石
まずは品質を落とすことなく、ライフリズムナビ+Dr.を全国に拡大していくことが次の展望。販売を開始した頃は手探りの部分もあったが、おかげさまで2018年と早期の段階で黒字を達成した。今はその勢いが確信に変わり、IPOに向けて準備を始めているところだ。莫大な監査法人などの管理コストもかかるが、それを支払っても揺るがない段階に入ってきた。
これまでは野武士を集めながら会社を成長させてきた。今は25人ほどの組織だが、IPOに向けてはガバナンスを含めてしっかりした基準を作っていかなくてはならない。そのルールも徐々に構築されつつある。
施設向けの事業が驚くほどの成長曲線を描いている一方で、その先には未知の領域である在宅介護の見守りが待ち構えている。そこに対しても布石を打ち始めた。2021年2月には東京ガスと在宅向けの「ライフリズムナビ+HOME」を開始し、不動産のヒューリックとは、AI/IoTプラットフォームが装備された「スマートシニアハウジング構想」を着々と進めているこれからメスを入れるべき領域はたくさんあるが、飽くなき挑戦を続けていきたい。