昨夏 東京23区内 熱中症で死亡の高齢者 約4割“エアコン無し”

2021年04月28日NHK


熱中症の対策ではエアコンの適切な利用が頻繁に呼びかけられますが、去年の夏、熱中症で亡くなった東京23区の高齢者のうち、およそ4割はエアコンが設置されていない部屋で過ごしていました。

専門家は、夏を前にした今のうちから、エアコンを持たない高齢者の支援に取り組んでいく必要があると指摘しています。

東京都監察医務院によりますと去年の夏、東京23区で熱中症で亡くなった人は200人に上り、このうち65歳以上の高齢者は178人と全体の89%を占めました。

また、屋内で亡くなった高齢者170人のデータを分析したところ、部屋にエアコンが設置されていなかった人は39%に上る67人でした。

去年の夏は記録的な暑さとなり、都心でも連日30度以上の真夏日が続き、熱中症への厳重な警戒が呼びかけられていました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で外出の自粛が求められ、エアコンの無い部屋で過ごす高齢者が熱中症によって死亡するケースが相次いだということです。

熱中症に詳しい日本医科大学付属病院の横堀將司高度救命救急センター長は「エアコンが無い環境では室内の温度が上がり、熱中症のリスクが高まってしまう。夏を前にした今のうちから自治体が中心となって支援を考えるなど、熱中症対策の取り組みを進め、社会的な機運を高めていくことが大事だ」と話していました。

購入費用援助する自治体も

高齢者がエアコンの無い部屋で熱中症になるのを防ぐため、エアコンの購入費用を援助する自治体もあります。

NHKが東京23区を対象に取材したところ、港区と足立区がことしから高齢者のエアコンの購入費用を援助する助成金事業を始めていました。

このうち港区では、区内に住む65歳以上の高齢者のみの世帯で、収入が年金のみなどの一定の所得制限を設けたうえで、エアコンの購入費用を6万5000円援助する事業をことし1月から始めています。

高齢者の見守り活動を行っている民生委員と連携してエアコンが無い部屋で暮らす高齢者に対し、助成金を活用してほしいと呼びかけてきました。
その結果、27日までに申し込みが51件あり、このうち36件ですでにエアコンが購入されたということです。

助成金でエアコン設置の高齢者は

港区で1人で暮らす77歳の女性は、去年の夏、エアコンの故障に気付きましたが、新たに買う資金は無く、扇風機などでしのいだということです。

新型コロナウイルスの影響で外出の自粛が求められる中、熱中症にならないか不安に思っていたところ、港区の助成事業を知りました。

先月申請すると、2週間ほどでエアコンが設置され、すぐに助成金が口座に振り込まれたということです。

女性は「自分の持ち出しのお金は少しで済ませられ、ありがたいと思っています。これから暑くなると思いますので、自粛期間もエアコンを使って家で静かに過ごしたいです」と話していました。

助成金事業を担当している港区高齢者支援課の金田耕治郎課長は「コロナの収束が見込めない中、熱中症で重症化しやすい高齢者の方に自宅で安心して過ごしてもらえるよう、支援事業を始めることになった。暑くなる前に今のうちにエアコンの設置を働きかけて、夏にすぐ使ってもらえるよう取り組みを進めていきたい」と話していました。

費用援助なしでもサービス提供の自治体も

エアコンの購入費用を援助していない自治体でも、高齢者の熱中症対策のサービスに取り組んでいる自治体があります。東京23区を調べました。

【大田区】
大田区では1万6000個の保冷剤を用意し配布することで、暑い時期はタオルで巻いて首や足の付け根にあてて冷やしてほしいと呼びかけています。

【北区】
北区では、水でぬらすと冷たさを感じる「クールスカーフ」を9500枚準備し高齢者に配って、首に巻いて使ってほしいと伝えています。

【目黒区】
目黒区では、職員が必要に応じて、水分とともに塩分も取れる経口補水液を渡して、こまめな水分補給を呼びかけています。

【ほかの自治体の対応】
ほかにも多くの自治体で職員や民生委員などが高齢者の住宅をまわり、熱中症対策をまとめたチラシを配って今の時期から注意するよう説明しているということです。

熱中症に詳しい日本医科大学付属病院の横堀將司高度救命救急センター長は「冷たいものを首などに当てることは太い血管の血液を冷やすことにつながり、非常に効率的な冷却法になる。エアコンの設置にかかわらず、急激な気温の変化に対処できるような環境の整備が必要だ」と話していました。

エアコン無稼働での熱中症にも注意を

一方で、高齢者の自宅にエアコンが設置されていても稼働されずに死亡するケースも確認されています。

横堀高度救命救急センター長は「夏になってエアコンを使おうとしても動かず、熱中症で命を落とした事例もある。これからは季節の変わり目で急激に気温が上昇すると体がついていけず熱中症になりやすいので、今のうちにエアコンの動作確認をしたり、暑さに体を慣らしたりしておくことが大事だ」と話していました。