「アレクサ、お母さんに呼びかけて」親の見守りの進化形
2021年01月25日日経ARIA
離れて暮らす親のことが気になるけれど、仕事やコロナ禍で気軽に会いに行くことが難しい今、IT機器を使って実家の様子を見守っているという介護エンジニアの福村浩治さん。前回紹介したネットワークカメラに続き、福村さんが実際に使ってみて利便性が高いと感じているアイテムについて詳しくお話を聞きました。
スマートスピーカーを実家に設置して親とビデオ通話
前回の記事「コロナ禍で会えない高齢親 ネットワークカメラで見守る」は、IT機器を使った実家の遠隔見守りの第一歩として、ネットワークカメラを置くことの有用性を福村さんに聞きました。
カメラが動きを検知したときにスマホアプリに通知が来るなど、離れた場所からでもいつもと違う様子に気づくことができるのが、ネットワークカメラの大きなメリット。その一方で、相手が我が子とはいえ、24時間いつでも自分の生活をのぞかれている状態に親が難色を示すこともあります。そうしたケースにも対応できる方法として福村さんが勧めるのが、必要なときだけビデオ通話が簡単にできる、スマートスピーカーを使った見守りです。
スマートスピーカーは音声で操作できるIT機器で、GoogleやAmazon、LINEなど、さまざまな企業が開発しています。例えば「Alexa」という音声サービスを搭載したAmazonのスマートスピーカーであれば、「アレクサ、今日の天気は?」と話しかければ天気予報を読み上げ、「アレクサ、○○の意味は?」と聞けば検索結果を音声で回答するなど、インターネットを経由して日常のさまざまな行動をサポートしてくれます。
ITに詳しい人、最先端のガジェット好きの人が使うものというイメージがあるかもしれませんが、複雑な操作手順の習得や機器への文字入力が必要ないため、実は高齢者にとってもスマートスピーカーは使いやすいものなのです。
福村さんがおすすめするスマートスピーカーは、Amazonが販売している「Echo」シリーズの中でも、ディスプレーが付いている「Echo Show」シリーズです。「音声で指示するだけでビデオ通話ができるので、高齢の親もすぐに使い方を覚えられる。顔を見て話しながら様子を確かめるのにぴったりです」(福村さん)。他にも、アラームや簡単な情報検索、音楽や映像の再生、家電の操作、Amazonでの買い物などができ、ネットワークカメラとの連携も可能です。
親から応答がないときでも「強制的に」つながる
Amazonのスマートスピーカー「Echo Show」シリーズを使ったビデオ通話は、自分の家と実家にそれぞれ設置した2台のスマートスピーカー同士で行うほか、スマートスピーカーは実家にのみ設置し、自分はスマホにインストールしたAlexaアプリを使ってやりとりすることもできます。自分が使う機器と実家のスマートスピーカーには、同じAmazonアカウントを登録しておきます。
「Echo」シリーズには、「コール」と「呼びかけ」という機能があります。「コール」は一般的なビデオ通話もしくは音声通話のこと。といっても発信や受信のときは、スマートスピーカーに「アレクサ、○○にかけて」「アレクサ、通話に出て」と呼びかけるだけです。親にとっては、スマホなどを操作してビデオ通話をするよりもずっと使いやすいはずです。
これに対し「呼びかけ」は、相手のスマートスピーカーが応答しなくても強制的に映像と音声がつながることが大きな特徴です。例えば定期的に親とビデオ通話で連絡を取っている時間に応答がないときなどに、「アレクサ、お母さんに呼びかけて」と言えば実家の映像が映し出され、「お母さん、いる? どうしたの?」と声をかけながら安否を確かめることができるのです。
なお、「呼びかけ」は一方的に映像をつなぐという相手のプライバシーに関わる機能であるため、異なるAmazonアカウントを設定した機器の間で使う場合は事前に受信許可の設定が必要になります。
「ネットワークカメラにも通話機能付きのものはありますが、音質がそれほど良くなく、会話しづらい面も。その点、スマートスピーカーは映像も音声もクリアです。ARIA世代の皆さんなら、設定も難しくないと思います」(福村さん)
気になる価格は、Echo Show 5が9980円、Echo Show 8は1万4980円、ディスプレーが回転し、ネットワークカメラとしても使えるEcho Show 10は2万9980円(近日発売予定、いずれも税込み)です。違いは画面のサイズやカメラの性能、音質など。上位機種のほうがより大きな画面で高品位なビデオ通話が楽しめますが、コールや呼びかけといった機能自体は同じなので、予算に応じて選ぶといいでしょう。
送った文章を音声に 小さなロボットが親との連絡をアシスト
スマートスピーカー以外にも、福村さんが「かなり便利で、連絡手段によく使っている」というIT機器があります。
「コミュニケーションロボット『BOCCO(ボッコ)』を実家に置いています。僕がスマホからテキストで送ったメッセージを、ロボットが音声で読み上げてくれます。親からは音声データとテキストデータが送られてくるため、こちらが声を出せない場所にいても会話ができます」
BOCCOは、ロボティクスベンチャー企業のユカイ工学が開発した約20cmの小さなロボット。愛嬌(あいきょう)のある姿が親を和ませる効果もありそうです。スマホのアプリからメッセージを打ち込むと、BOCCOが音声で読み上げます。親からすると、BOCCOがしゃべり出すようなイメージです。親が返信するには、録音ボタンを押しながら話すだけ。スマホ側には、音声データと書き起こされたテキストメッセージの両方が送られてきます。
BOCCOは2万9000円で発売されているほか、BOCCOの基本機能に加えて、豊かな感情表現やハンズフリー操作などを可能にしたBOCCO emo(4万円、いずれも税別)も2021年3月発売に向けて開発中です。
また、福村さんは家の鍵を遠隔で開閉できるスマートロックも便利だと話します。スマートロックとは、ドアの鍵部分に取り付けると、スマホのアプリから鍵を開け閉めできるようになるIT機器です。近くで開閉できるBluetooth接続だけでなく、Wi-Fi接続すればインターネット経由で遠くからでも鍵を操作することができます。複数の人で管理したい場合は、それぞれアカウントを作ってスマートロックに登録します。開閉の履歴をアプリで確認することもできます。
「親が高齢で体が不自由な場合、ヘルパーさんが来ても家の鍵を開けられないため、介護の事業所が鍵を預かったりします。でも、スマートロックなら家族が遠隔で開けることもできますし、ゲストアカウントを作って事業所と共有することもできます。私はCANDY HOUSEの『セサミmini』(税込み9800円)を利用しています」
メリットとデメリットはトレードオフ 目的を軸に判断を
スマートロックは家の鍵という、セキュリティーで最も重要な部分をIT機器に任せることになります。ネットワークカメラも、家の中の映像をネット経由で他の場所から見られるようにするもの。不正アクセスの心配はないのでしょうか。福村さんは「メリットとデメリットのトレードオフ」と考えているそうです。
「セキュリティーに関しては、さまざまな説が出ています。メーカーが安全だと説明していても、不正アクセスされる可能性はゼロではありません。でも、家の鍵を介護の事業所に渡すことだって、ある程度のリスクは伴うもの。目的のためにはどのリスクを許容するのが最善か考えることが大切だと思います。
離れた場所からの見守りは、高い頻度でコミュニケーションを取ることが必要です。親が高齢になると、以前はできていたことが日に日にできなくなることも多いので、日々の状態を見守っていくことで、心構えもできます。そのためにも、 IT機器で気軽に連絡できるような環境をつくることが大切ではないかと私は考えています」