独居高齢者 AIが見守り インフィック、長野・大鹿村で実験 離床予測、未然に事故防止 過疎地モデル目指す

2020年12月12日日経新聞

 

介護総合支援会社インフィック(静岡市)などは高齢化が進む長野県大鹿村で人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用し、高齢者を見守る実験に取り組んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、一人暮らしでも遠隔から安否を迅速に確認できるのが特徴だ。過疎地での独居生活を支えるモデルになるか注目される。

南アルプスの麓で人口約980人の大鹿村は高齢化率(人口に占める65歳以上の比率)が49%と長野県内で4番目に高い。一人暮らしは約130人にのぼり、単身高齢者の安否確認をいかに進めるかが課題になっている。

実験はほぼ全世帯に導入済みの光回線を活用した見守り事業を模索していた村の相談を受け、NTT東日本がまとめ、飯田ケーブルテレビ(長野県飯田市)など4社が連携して10月に始めた。インフィックがセンサーを使ったAIによる離床予測サービスを、日本郵便がスマートスピーカーで高齢者とその家族、村役場をつなぐサービスをそれぞれ提供する。20世帯で12月まで実験し、2021年度以降の本格導入をめざす。

インフィックのサービスは高齢者の自宅に設けた複数のセンサーの情報をAIが解析し、夜間の30分以内の離床を予測する。高齢者の転倒を未然に防ぐことに活用できる。ベッドのセンサーは脈拍や寝返りなど体の姿勢を把握。室温、湿度、電気の照度や部屋の中の動きを感知するセンサーも使う。深夜に電灯を消したまま動く回数などから認知症の傾向を把握するほか、温度と湿度から熱中症のリスクも調べる。転倒の可能性が高い場合は家族や村職員のスマートフォンなどに通知し、寝たきりにもつながりかねない事故を未然に防ぐ。

一方、高齢者が声で操作する画面付きのスマートスピーカーも高齢者の住宅に設置した。スピーカーから「薬を服用したか」といった質問を音声で投げかけ、高齢者が答えるとその情報が対話アプリのLINEで家族らに発信される。スマートスピーカーの画面には家族からのメッセージや写真を映すこともできる。

実験後は参加した住民に使い勝手などのアンケート調査をする予定だ。大鹿村は成果と課題を検証し実用化を検討する。超高齢社会が本格化するなか、「村外に住む家族が安否を確認するだけでなく、高齢者の生活に関するデータを使って保健師が適切な健康指導をすることにもつなげることが可能になる」(担当者)と期待する。

参加企業は他の自治体へのサービス提案を視野に入れる。インフィックは静岡県や首都圏、東北の自治体とも見守りサービスの導入について協議を進めているという。新型コロナの感染拡大が続いても「人と人の接触をなるべく減らし独居高齢者の生活を遠隔から支える環境を整える」(増田正寿社長)と意気込む。日本郵便の担当者も「実験でスマートスピーカーの機能向上を図り、より多くの自治体の高齢者支援の取り組みに寄与していきたい」と話す。

国は、高齢者が住み慣れた場所で暮らせるよう地域全体で支える地域包括ケアを進めており、在宅介護などの需要は今後増える見通し。重症化しやすい高齢者の新型コロナ感染を予防しながら、安否確認や生活支援の取り組みを進めるかが地域の課題になる。