スマホ乗り換え、シニア800万人照準 SNS利用機に
2020年11月30日日経新聞
ガラケーと呼ばれる旧式の携帯電話を使う中高年を巡り、スマートフォンへの乗り換えを促す携帯各社の競争が激化してきた。イオン系は60歳以上向けの安価なプランを拡充し、楽天モバイルは専用アプリを導入。推計の利用者は大手3社を中心に約800万人にのぼるが、2020年代半ばにはガラケーのサービスは終了する。格安勢は顧客基盤を切り崩す好機とみて攻勢をかける。
イオン傘下の格安スマホ、イオンモバイルは60歳以上限定の料金プランを投入した。データ容量は3ギガ(ギガは10億)~8ギガバイトの小容量で料金は音声通話機能付きで1280~1980円。通信速度を抑え、一般向けの従来プランと比べると500円程度安くした。
シニアはスマホでSNSは使うが、動画配信といった速度や容量が求められるサービスは使わない人も少なくない。シニアの利用実態にあわせ、プランを設計した。
格安スマホのトーンモバイルは11月27日から自社開発のスマホ(価格1万9800円)の無料提供を始めた。位置情報を確認できる「見守り機能」などを組み込んでいる。「シニアは通話時間が長い」とみる日本通信は電話かけ放題のプランを始めている。
楽天も中高年向けアプリ「楽天シニア」を始めた。東京都内を中心に薬局など約400カ所に専用の機器を設置。スマホを機器にかざすと楽天ポイントをもらえる。高齢者の街歩きを促進する。アプリからは楽天モバイルのスマホ教室の案内などが届き、参加するイベントによっては楽天ポイントを付与する。
格安スマホがシニアを取り込む契機となったのは、ソフトバンク傘下の格安スマホ「ワイモバイル」の成功だ。18年8月にシニア向けスマホを発売し、60歳以上の利用者の国内電話を無料にするサービスを始めた。シニアプランが寄与し、3月末にはワイモバイルのスマホ契約は500万件を超えた。年齢別の内訳は明らかにしていないが「シニアは増加している」(ソフトバンク)。8月には新端末を投入し、迷惑電話を自動で録音する機能などを加えた。
各社が扱うスマホは画面の文字を大きく表示し、操作が簡単な商品が多い。メーカーでは京セラやシャープが目立つ。
20年代半ばにガラケーで使われる3Gの通信サービスが終了するため、シニアはスマホへの乗り換え余地がある。MMD研究所(東京・港)が60~79歳の男女1万人を対象に実施した調査によると、同年代のスマホ所有率は77%。15歳~59歳(90%超)より低く、ガラケー利用者の比率が相対的に高いとみられる。
総務省の調査によると、ガラケーで使う3G回線の契約は19年6月末時点で約3千万件。うち個人は約2千万件とみられる。MM総研(東京・港)によると、個人のうち65歳以上が約4割を占めるとされ、シニアのガラケー利用者数は800万人程度とみられる。
コロナ下の外出自粛で友人や孫などとの連絡のためSNSに興味を持つシニアが増えるなか「シニアのガラケー利用者を抱えるNTTドコモから顧客を奪おうとする格安勢の動きが活発化している」(業界関係者)との声もあがる。
格安スマホの攻勢にドコモも「対抗しないといけない」(幹部)と意気込む。スマホ利用者の囲い込みなどにつなげようと、12月から対話アプリ「LINE」などを初期設定するサービスを始める。1つのアプリにつき1650円で、アプリ設定に不慣れなシニアに需要があるとみる。
菅義偉政権から一段の料金引き下げを求められている携帯大手にとっても、ガラケー利用者のスマホシフトは重要な課題だ。「シニアがスマホに切り替え、アプリの利用などでARPU(アープ、1契約当たりの月間収入)が上がれば収益貢献はガラケーより大きい」。MM総研の横田英明常務はこう指摘する。