コロナ禍の今こそ「傾聴」 じっくり聴いて孤立防ぐ
2020年11月27日毎日新聞
あなたの話、聴かせてください――。新型コロナウイルスに伴うストレスの増加や孤立感の深まりが懸念される中、カウンセリングなどにも使われるコミュニケーション法の「傾聴」が注目されている。ボランティア団体による傾聴活動は全国に広がり、今年はオンラインでスキルを学ぶ養成講座も開かれている。国の自殺防止対策でも、悩んでいる人に寄り添う「ゲートキーパー」に必要なスキルとされる傾聴。どのようにすればいいのだろうか。
10月下旬、福岡県新宮町の社会福祉協議会の一室。傾聴ボランティア団体「そら」のメンバーがコールを受けて受話器を取った。コロナ禍で外出できず気持ちがふさいだ人たちの支えになればと7月、毎週金曜午後1~3時に電話をかけてきた相手の話を聴く「ふれあい10分コール」(092・963・0921)を始めた。
傾聴は相手の思いを受け止めて「聴く」ことに徹するのが基本だ。話を否定したり、こちらの考えを押しつけたりせず、うなずいたり相づちを打ったりして安心感につなげる。相手が抱えているのは孤立感や仕事の悩みなどさまざま。代表の森美代子さん(65)は「誰とも話せない日が続くつらさを明かして涙ぐむ方もいた。ひとときでも話してほっとしてもらえる受け皿になれれば」と語る。
傾聴に特別な資格は必要ないが、市民向け養成講座は全国で開かれている。NPO法人・日本傾聴ボランティア協会(東京)の山田豊吉事務局長は、講座を経て活動するボランティアが「全国に2万~3万人はいるのでは」と推計する。
福岡市でも社会福祉協議会が6年前から講座を開催。修了生でつくるボランティアグループは13団体あり、高齢者施設の訪問や地域の見守りなどに傾聴を生かしている。同市東区では11月から傾聴ボランティア「笑みの会」が「笑顔の10分コール」(080・3951・8742、毎週金曜午後1時半~3時半)を始めた。
一方でこれまで傾聴ボランティアを担ってきた人たちが高齢化して活動から離れるケースもある。新たな担い手の育成を止めることはできないが、今年は新型コロナウイルスの影響で講座の開催が難しい。そこで注目を集めているのがオンライン講座だ。
傾聴のスキルアップ講座を毎年開いている福岡市のNPO法人・FFAフォロワーシップ協会は今年、講座をオンラインに切り替えた。オンラインのメリットで関東などからも参加者があり、定員の20人はすぐ埋まった。施設にいる認知症のおばとの対話に生かそうと受講した福岡市の女性(52)は「同じ話の繰り返しにイライラしがちだったが、今度会ったらじっくり話を聴きたい」と話す。
養成講座の講師経験がある九州大キャンパスライフ・健康支援センターの入江正洋准教授(ストレスマネジメント)は「高齢化や核家族化が進む中、傾聴できる人材が増えれば悩める人の生きやすさにつながると思う」と期待。その上で、聴く側が相手の悩みを一人で抱えないようアドバイスする。「傾聴ボランティアは専門職ではない。重い悩みや問題は適切な機関につないだりすることも大切だ」
ゲートキーパーと傾聴
国は自殺防止策として、専門性の有無にかかわらず誰もが悩んでいる人の心情に寄り添い、適切な支援につなげる「ゲートキーパー(命の門番)」の意識を持つよう呼びかけている。その中で挙げられている役割の一つが傾聴だ。警察庁のまとめによると、全国の自殺者数は10月が速報値で2153人。前年同月比約4割増で7月以降4カ月連続で前年を上回っている。厚生労働省はコロナ不況による生活苦も一因とみており、ゲートキーパーと傾聴の必要性が増している。
<傾聴のポイント>
本人の気持ちを尊重し、耳を傾ける
- まず、話せる環境をつくる
- 相手に心配していることを伝える
- 悩みを真剣な態度で受け止める
- 誠実に、尊重して、相手の感情を否定せず対応する
- 話を聴いたら「話してくれてありがとうございます」「大変でしたね」というようにねぎらいの気持ちを言葉にして伝える
- 本人を責めたり、安易に励ましたり、相手の考えを否定したりすることは避ける
(厚生労働省「誰でもゲートキーパー手帳」より)