登下校の見守りへ広がるICT 問題は担い手不足

2020年11月18日SankeiBiz

 

 子供の登下校時を狙った事件は後を絶たず、凄惨(せいさん)な事件が起こるたびに通学路の安全対策を強化する必要性が指摘されてきた。子供の安全を守ろうと地域ボランティアによる見守り活動も行われているが、高齢化により、各地ではなり手不足が深刻化している。子供を見守る「目」をどう維持するのか模索が続く中、近年ではICT(情報通信技術)を活用した見守りを行う自治体が増加している。

 警察庁によると、13歳未満の子供が登下校時などに犯罪に巻き込まれるケースはここ数年ほぼ横ばいで推移し、平成30年は全国で573件。いずれも午後3時から午後6時の下校時に発生が集中しているという。


 「従来の見守り活動に限界が生じ、地域の目が減少している」。30年5月に新潟市で下校途中の小学2年の女児が殺害された事件を受け、政府が同6月に策定した「登下校防犯プラン」では、こう警鐘を鳴らし、地域ぐるみで通学路の危険箇所を把握、防犯対策を強化するよう要請した。

 ただ、全国の地域ボランティアのほとんどが高齢者で、関係者は「世代交代が進んでいない」と危機感を示す。警察庁によると、昨年末の防犯ボランティア団体の構成員数は約250万人で前年から約8万5千人減少。共働き家庭も増えており、通学路の安全を見守る態勢は手薄になりつつある。文部科学省の担当者は「散歩や買い物の途中に見守りを行う『ながら見守り』の取り組みを強化してほしいが…」と話す。

「人の目」以外にも

 こうした中、従来の「人の目」による警戒以外に、ICTを活用した見守りシステムを導入する自治体が増え始めている。

 奈良県田原本(たわらもと)町では、児童に衛星利用測位システム(GPS)機能を搭載した端末を持たせ、児童の居場所や移動経路を保護者が無料通信アプリLINE(ライン)で確認できるシステムの運用を今年4月から始めた。


 学校に電波受信機を設置し、登下校の時間も通知。現在、町立田原本小学校の1年生約70人が利用しており、今後町立の全小学校の1年生に対象を広げる方針だ。町防災課の担当者は「集団下校をしても、自宅まで1人になる区間がある。地域ボランティアだけでは、カバーできない部分もICTが『目』となって補うことができる」と期待する。

 こうした動きは各地で広がる。奈良市では児童の登下校を把握するシステムを30年から導入。大阪府箕面市でも28年から全市立小中学校の児童・生徒に端末を無料配布し、市内約700カ所に電波受信機を設置して、移動経路を把握するシステムを運用しているほか、京都府亀岡市でも同様の取り組みを今年9月から始めた。

 自治体に見守りシステムを提供している「ミマモルメ」(大阪市)によると、これまで全国31都道府県の約1500校から申し込みがあったといい、担当者は「ICTを活用した見守りへの関心は高まっており、最近は年200校のペースで増えている」と話す。

「社会で見守り理解」

 NPO法人「日本こどもの安全教育総合研究所」(東京)の宮田美恵子理事長は「人の目が行き届かない時間帯や場所にICTを活用し見守りに生かすメリットは大きい」と指摘。その上で「地域に住む人だからこそ気付く異変もある。機械に頼り切らず、合わせ技で活用することが重要だ。企業が『見守り休暇』を導入するなど、若い世代も見守りに参加しやすい社会へと仕組みを変えることも求められる」としている。