「バブル終わった」コミュニケーションロボ  

2020年11月10日日経新聞

  

「バブルは終わった。ある程度、製品のサポートや品質の担保、サービスを継続できる企業でないと生き残りは難しい」――。シャープのモバイル型ロボット「RoBoHoN(ロボホン)」の担当で、同社通信事業本部営業統轄部市場開拓部部長の景井美帆氏は、コミュニケーションロボットの現状についてこう話す。

人との対話や触れ合いを売りにするいわゆる「コミュニケーションロボット」製品の売れ行きはすっかり頭打ちになっている。2013~18年ごろの「第3次ロボットブーム」では新製品が続々と登場して世間を沸かせていた。ところが今や消費者の興味は一巡し、企業も冷静な眼でロボットを見つめている。

その間、ロボットベンチャーの撤退も相次いだ。例えば、米ジーボの家庭用ロボット「Jibo」。シンプルな構造ながら体をくねらせるような動きで親しみを感じさせるのが特徴でKDDIや電通といった日本企業からも出資を集めた。ところが、17年の発売からわずか1年後に事業を停止。タカラトミーが国内販売した玩具ロボット「COZMO(コズモ)」の開発元である米アンキも、19年に経営破綻した。

逆風の1つとなったのは、同時期に普及した「Amazon Echo(アマゾンエコー)」や「Google Home(グーグルホーム、現Google Nest=ネスト)」といったスマートスピーカーだろう。音声対話でクラウドサービスを呼び出すサービスという点でコミュニケーションロボットの競合である。価格も安く、可動部を持つロボットのおよそ10分の1。大手IT(情報技術)企業のサービスだけあって、使い勝手もよい。サードパーティーの参入でできることもどんどん増えている。

そうした中、コミュニケーションロボット事業を継続する企業は、あの手この手で生き残りを模索している。

■ロボホン、マンションに標準装備

例えば、ロボホンを販売するシャープ。16年5月に先代モデルを発売した当初、同社は月産5000台を目標に掲げていた。当時の本体価格は19万8000円(税別)。だが同社が期待したほど需要は伸びず、3年弱が経過した19年1月末までの販売実績は約1万2000台にとどまった。

そこから同社は個人だけでなく企業にもロボホンを売り込む方針に転進する。19年2月に発表した現行モデルのラインアップには、2足歩行と携帯回線のLTE通信機能を省いた着座タイプ「RoBoHoN lite(ロボホンライト)」を用意。価格はより安価な7万9000円(税別)で、通信に無線LANを使う。電話(Phone)を意味するロボ「ホン」という名称は残しつつも、もはや可動部のあるスマートスピーカーといった印象だ。

そんなロボホンライトの導入を決めたのが、名鉄不動産(名古屋市)など4社が売り出したある新築分譲マンションだ。このマンションは21年12月下旬から入居が始まる。ロボホンライトを「ロボットコンシェルジュ」として、全192戸に標準装備するという。

ロボットコンシェルジュを使うと、入居者はマンション管理組合からの連絡を受け取れるほか、エアコンや照明、テレビといった家電製品のオンオフ操作などを音声で指示できる。カメラで撮影した自宅の様子を外出先からスマートフォンで閲覧する機能もあり、子どもやお年寄りの「見守り」にも役立つ。

企業向けの需要開拓に注力する一方で、既存の個人ユーザーをつなぎ留める工夫も欠かさない。その1つが毎年5月に企画するロボホンの「誕生日イベント」である。

1周年となる17年5月には、希望者から選ばれたロボホンユーザーを製造元の同社広島事業所に招待する日帰りイベントを開催。ユーザーの機体の「健康診断」や、工場でロボホンを修理する様子を見学してもらった。4周年となる20年は新型コロナウイルスの影響でオンラインに切り替えたものの、企画自体は継続している。

こうした取り組みが功を奏し、ロボホンユーザーの継続率は高水準だという。ロボホンを日常的に利用し続けるためには月額980円(税別)からのクラウドサービス「ココロプラン」の契約が必須となる。19年1月末時点で同プランの契約を継続中のロボホン台数は出荷台数全体の81.3%に達するという。

同社は20年10月時点での販売台数と継続率については回答を控えているものの、「愛着を持てる製品づくりが継続利用につながっている」(シャープの景井氏)と胸を張る。

■自治体を経由して利用料安く

自治体を経由したビジネスでコミュニケーションロボットを売り込むのがNECだ。19年1月から、ロボットで高齢者を見守るサービス「みまもり パペロ」を始めている。同社子会社が16年に発売した「PaPeRo i(パペロ アイ)」を使う。20年10月までに、愛媛県西条市、兵庫県市川町、静岡県藤枝市が導入を決めた。導入台数は公開していない。

高齢者の自宅に同製品を設置すると、スマホを持つ遠隔の家族とテキストや音声、写真のやりとりができる。また、センサーで部屋の明るさや温度を監視できるため、消灯の有無や空調の加減について、家族はスマートフォン越しに確認できる。とはいえ、こうしたITを活用した高齢者の見守りサービス自体は、そう目新しいものでもない。

むしろ、同サービスのユニークな工夫は販売方法にある。同社はユーザーである高齢者に直接販売せず、まずは自治体と契約を結ぶ。その後、契約した自治体がその地域に居住する高齢者に呼び掛けて利用を受け付ける。つまり、販売元である同社とユーザーである高齢者の間に、自治体が入るのだ。

同サービスを担当するNECデジタルネットワーク事業部の松田次博氏によると、まずは高齢者の個人情報を保護する観点から、このような仕組みが必要だった。

利用するには、作業員が高齢者の自宅の台所や居間に上がってロボットを起動し、インターネットに接続する必要がある。しかし、一企業の社員がユーザーの生活状況を見てしまう状況はよろしくない。

その点、自治体の「高齢福祉課」といった部署の職員ならば、高齢者も安心だ。同社にとっても、販路や保守サービスの手を闇雲に広げる必要がないのはメリットである。自治体職員がロボット設置のために高齢者の自宅へ出向いてくれるのであれば、コスト削減につながる。その結果、「高齢者が支払う利用料も抑えられる」(NECの松田氏)という算段だ。

モバイルルーターを付属すると、初期費用は1台あたり3万8500円(税別)、月額利用料は通信費込みで4500円(同)。導入台数が100台以下の自治体の場合、運用支援費の月額8万円(同)を支払う。静岡県藤枝市のように、高齢者の支払う料金の一部を補助する自治体もある。

ブームは去ったが、生き残った企業はコミュニケーションロボットの新しい需要の開拓に成功し始めている。今後、潮目が変わりそうな気配もある。新型コロナの流行に伴う人々の行動変容だ。

テレワークの普及でウェブ会議など「非対面」のコミュニケーションが当たり前になっていく一方で、対面との違いに戸惑う人も増えている。映像や音声だけでは、会話のニュアンスを伝え切るのが難しいからだ。

ロボットコンシェルジュや見守り用途でみたように、可動部のあるコミュニケーションロボットはこうした状況を補完できる有力な手段となり得る。コミュニケーションロボットは最終的に、音声や映像だけのスマートスピーカーを代替していく存在になるかもしれない。