AI・ロボット、家族の「目」になり高齢者に密着

2020年09月04日日経新聞

  

新型コロナウイルスのまん延で家族などとの接触機会が減る中、高齢者の暮らしを遠くから見守るスタートアップのサービスが広がっている。高齢者に密着したウエアラブル型のセンサーやロボットが、本人には気付きにくい体の変化を検知。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」が、家族の目となり耳となり寄りそう。世界最速で高齢化が進む日本で技術を鍛えれば、海外展開にも道が開ける。

高齢者福祉のスタートアップ、ワーコン(福岡市)の本社ビルの一室。ずらりと並ぶモニターに2~3人の看護師が目を走らせる。画面に映し出されるのは、同社の見守りサービスを利用する高齢者の生体データだ。

脈拍や呼吸機能などのデータは高齢者宅に設置したマイクロ波センサーから測定。異常を見つけ出すと本人に連絡し、危険度が高ければかかりつけ医や訪問看護師に通報する。同社で勤務するのは看護師の資格を持っている主婦などで自宅からも遠隔で対応。北は青森県から南は鹿児島県まで毎日20人ほどをモニタリングする。

■患者の死を乗り越え起業

高齢者宅には音声認識機能を持った在宅ロボットも寄り添う。決まった時間になると「体温を測りましょう」などと促し、利用者が「苦しい」「助けて」などと話しかけると看護師にテレビ電話がつながる。

「24時間体制で見守ってもらえるので安心」。

福岡市の男性が利用を始めたのは、90歳の父が体調を崩したことがきっかけだった。入院も考えたがコロナで頻繁に面会できないため気が引けた。かかりつけ医に相談したところワーコンを紹介された。

「医療知識がある看護師が様子を確認するため、医師との連携もスムーズ」。こう話す元看護師の青木比登美社長は50歳の時にワーコンを起業した。看護部長時代に受け持った患者2人が孤独死。つらい経験から病院にたどり着けない弱者を支援するサービスの必要性を痛感した。

キャリアを捨てて遠隔看護の実現に奔走。最新テックを身につけ見守りサービスの新機軸を打ち出した。「包帯を巻くだけが看護師の仕事ではない。家族のケアも含めて看護師ができることは多い」(青木社長)。

コロナ禍で感染リスクの高い高齢者とその家族が会える機会は減っている。仕事と介護の両立を支援するリクシス(東京・港)の調査によると、65歳以上の親がいるビジネスパーソンのうち、7割が外出自粛前と比べて「親のことを考えるようになった」と回答した。

■95%の精度で正しい飲み込みを判断

高齢の親を持つ家族が分断される中、疾患や死亡リスクを減らすためテックが目となり耳となり暮らしに寄り添う。筑波大学発スタートアップPLIMES(プライムス、茨城県つくば市)は、飲み込みの能力を計測するえんげ計「GOKURI(ごくり)」を開発する。U字状のセンサーを首につけ、飲み込みの音や、食べるときの姿勢を測定。計測結果はスマートフォンで確認できる。

飲み込む音は、クラウド上に集まった5000以上の症例のデータベースをもとに人工知能(AI)が分析。95%の精度で正しく飲み込めたかどうかを計測できるという。飲み込みに苦労しているデータがみつかると、医師が食事のときの姿勢や食材の切り方などを指導する。

厚生労働省の人口動態統計によると、19年の日本人の死因の第6位が誤えん性肺炎で、年間約4万人が亡くなっている。「誤えんは予防できる。客観的データがそろえば対策がとれる」と鈴木健嗣社長は指摘する。

現在は各地の大学病院の健康診断でも利用され、ビッグデータになりつつある。「体温計や血圧計と同じようにえん下計測の文化を普及させたい」。鈴木社長は使命感に意欲を燃やす。

高齢者が自立できるようになれば、非接触が求められるコロナ下でも不安は軽くなる。トリプル・ダブリュー・ジャパン(東京・港)は、開発した排尿予測機器「ディー・フリー」を使ったサービスを手掛ける。幅約5センチメートルの機器を下腹部に取り付けると、超音波によるエコーでぼうこう内の尿の量を測定。尿のたまり具合を10段階で示し、排尿のタイミングが近づくと本人や介護者に通知する。

ある施設では、排せつケアのため高齢者と密になって作業する時間を2割減らせたという。介護者が頻繁に衣服をめくり上げて排せつの様子を確認したり、排せつ後におむつや寝具を交換したりする必要がなくなる。「非接触と高齢者の自立という一挙両得のIoTサービスとして根付かせていきたい」。中西敦士代表が掲げる経営目標だ。

2017年の発売から3000台以上を出荷。導入施設数は19年7月時点から2倍に増えた。コロナ後は、昨年の2倍以上の引き合いがあり、中西社長は手応えを感じている。

2020年版高齢社会白書によると、65歳以上のひとり暮らし世帯は男女ともに増加中。40年には65歳以上の人口に占めるひとり暮らし世帯の割合は女性で25%、男性で21%に増える見込みだ。

高齢化は欧州やアジアなど世界共通の難題だが、日本はどの国より速く進むとあって課題解決のための実験場ともいえる。日本でIoTやAIを使ったビッグデータ解析など事業モデルを打ち立て、海外向けにローカライズすればスタートアップには大きな収益機会となる。要となる医療機関などと手を携え高齢者に寄り添う新たな"家族"になるべく各社はサービスを磨く。