始まりはCEATECの出会いから、LIXILのIoTサービスは親子の絆を再び強める
2020年06月18日MONOist
LIXILグループ傘下のNITTO CERAは、遠隔地に住む親のトイレ使用状況を可視化するIoT(モノのインターネット)サービス「omu」を開発し、Makuakeを活用したクラウドファンディングを開始した。クラウドファンディングの期間は2020年6月16日~9月13日の約3カ月間で支援目標金額は200万円だ(omuのクラウドファンディングWebサイト)。
高齢化が進む日本だが、親と子が同じ住宅に住んでいないことも多い。このため、スマートフォンなどを活用した「高齢者見守り系サービス」が多数提案されている。また、カメラなどを使った介護システムの枠組みに入る高齢者見守り系サービスも数多く存在している。「遠隔地に住む親のトイレ使用状況を可視化するIoTサービス」とだけ聞けば、omuも、あまたある高齢者見守り系サービスの一つにすぎないと感じるかもしれない。
しかしomuの開発コンセプトは“親を想うきっかけを作る”となっており、既に何らかの障害を抱えている親の状態を見守り、異常があった時に駆け付けることが主な用途となっている既存の高齢者見守り系サービスとの違いを打ち出している。
omuのデザインを担当したLIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN 新規事業推進部 デザイナーの稲田ゆか理氏は「別々の家に住んでいる親と子は、たとえ近くに住んでいても会わないことが多い。子にとってそれは日々の罪悪感のようにもなる。omuは、親のいつも通りが分かることで親への想いを日常にして、親子の絆を再び強めるためのIoTサービスだ」と語る。
トイレはその家で暮らす人の動きを確実に捉えられるポイント
omuは、トイレの水タンク上部の手洗いに設置するIoT機器と、IoT機器と連携するスマートフォンもしくは専用ゲートウェイ、IoT機器が検知したトイレの使用データをクラウドで蓄積、可視化するアプリケーションから構成されている。稲田氏は「見守り系サービスでは、その家で暮らす人の動きを確実に捉えられるポイントが重要になる。各種住宅設備機器を扱うLIXILとして、トイレは確実に情報が得られる場所と考えていた」と説明する。
IoT機器は、上方から下方に水を通す穴が開いており、トイレを使用した際に手洗いの蛇口から流れ出る水がこの穴を通ることをセンシングしてトイレの使用を検知する。通信はBluetooth 4.1を用いており、通信距離は十数m程度を確保している。そしてIoT機器の連携対象となるスマートフォンもしくは専用ゲートウェイを経由してクラウドにデータが送信される仕組みだ。このため設備工事は不要である。
omuのスマートフォンアプリを使えば、蓄積したデータを基にトイレの使用状況を可視化できる。時間当たりに設定した以上の回数使用した場合には「使いすぎ通知」、一定時間内にトイレの使用がなかった場合には「使ってない通知」、深夜など設定した時間内での使用があった場合の「使った通知」などのアラート通知機能もある。この他にメッセンジャー機能もあり、親の外出予定などを確認することもできる。
「CEATEC JAPAN 2017」でノバルスと出会う
LIXILは、水まわりに用いるさまざまな電子機器を開発しており、omuのIoT機器のように電子機器に水がかかることにも慣れ親しんでいる。ただし開発の課題になったのは、トイレの水タンクに置くだけで、設備工事を不要にするための給電と通信技術である。この課題を解決する共同開発パートナーとなったのが乾電池型IoTデバイス「MaBeee」を手掛けるノバルスである。
LIXILとノバルスの出会いのきっかけは2017年10月開催の「CEATEC JAPAN 2017」だった。LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN 理事 新規事業推進部 部長でNITTO CERA 社長の浅野靖司氏は「LIXILが新たな事業展開を模索するため2017年に初出展した際に、B2B向けの事業展開を強化するべく出展していたノバルスと出会い、開発の取り組みが始まった」と述べる。
両社の出会いから約半年後の2018年春には、見守り系サービスの可能性を模索するためのプロトタイプとして、電池で動くトイレ用リモコンを開発し、半年間のモニター調査を進めた。「このとき大きな課題になったのが、“見られている”ということに対する抵抗感だった。この課題解決を含めて、モニター調査からあるべき姿が見えてきた」(浅野氏)という。
2018年秋からは、トイレ用リモコンとは異なる次のモデルの開発を開始し、2019年秋には現在のomuにつながるコンセプトモデルが完成。2019年10月の「CEATEC 2019」に「みまもりトイレサービス」として参考出展した。浅野氏は「ここで大きな手応えが得られたので、2019年12月からomuのプロジェクトを正式スタートさせた」と語る。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大などで作業スケジュールが厳しくなるものの、プロジェクト発足から約半年でクラウドファンディングのスタートまでこぎつけたことになる。
利用料は月額980円に抑える
先述のモニター調査などを経て決まったのが利用料金だ。稲田氏は「離れた親のことを思い出す、親との絆を強めるというのがomuのコンセプトだが、そのためには利用料はリーズナブルでなければならない。そのために月額980円(税別)というラインを超えないように開発を進めてきた」と強調する。また、使用する電池は単四形アルカリマンガン型乾電池2本だが、ノバルスのMaBeeeの技術により約1年間の継続利用が可能だ。なお、IoT機器本体の価格は約1万円を想定している。
IoT機器を、トイレの水タンク上部の手洗いに設置する仕様としたのも、親世代の家の半数以上でトイレに手洗い付き水タンクが設置されているという調査結果に基づいている。「“見られている”と感じないように、トイレの水タンクに溶け込むような、自己主張のないデザインにした」(稲田氏)という。
ただし、トイレの水タンク上部という設置位置はトイレ洗浄剤などと競合する可能性もある。浅野氏は「近年のトイレの水タンクは内部構造が樹脂製になっており、水タンク上部にトイレ洗浄剤を置くことは推奨されていない。この流れもあって、スタンプタイプのトイレ洗浄剤も普及しつつあるので競合しないのではないか。また、洗浄剤メーカーとコラボしたomuを開発するということも考えられる。今回のクラウドファンディングを通して、他業界とのコラボレーションも模索したい」と述べている。