車や事務所、シェア敬遠 新常態で高齢者見守りは需要 新型コロナ・中部の衝撃

2020年05月22日日経新聞

 

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、物や空間を共有して効率的に使うシェアリングエコノミーに変化の兆しが見え始めた。中部では自動車やオフィスのシェアは感染リスクから敬遠されている一方、高齢者の見守り代行や宿泊業者への資金繰り支援といった新たなニーズが伸びている。

「名刺交換など実際に会うことで起業家の本当の交流が生まれるのだが……」――。こう嘆くのは、スタートアップ支援拠点「なごのキャンパス」(名古屋市西区)を運営する東和不動産(同市)の担当者だ。

「起業不毛の地」といわれる中部を変えようと、名古屋商工会議所とともに2019年秋、廃校を改装してオープン。オフィスにはベンチャー15社と大手3社が入り、4月に初めて開いたオンラインのイベントは約120人の視聴者を集めた。コロナ禍の営業自粛で一転、コワーキングスペースには多いときでも十数人ほどしかいない。

愛知県は事業者や施設への休業要請を段階的に解除しているが、コロナ禍の「新常態」で外出を控えたり、他の人とモノの共有を避けたりする傾向は強まっている。最も影響を受けた業態のひとつが、カーシェアだ。

名古屋鉄道グループの総合商社、名鉄協商(同市)が手がける「カリテコ」は、車を15分単位で借りられる手軽さが受けて1805社(3月時点)と法人契約を結んでいる。

しかし、外出自粛が強まった4月、カリテコの売上高は前年同月に比べ約3割減った。新ビジネスとして自転車のシェアサービスを広げる計画だが、コロナ禍で需要が見通せないとして投資計画を当面凍結するという。

テレワークや休校で家で過ごす時間が増え、炊事や洗濯といった家事代行のアシスト(同市)では定期契約の一時停止が目立っている。代わりに増えているのが高齢者支援サービスという。ニーズは着替えや散歩から通院の付き添い、話し相手まで幅広い。

政府は中部を含め緊急事態宣言を順次解除しているが、県をまたぐ移動は控えるように呼びかけている。同社は「東京の家族から名古屋にいる両親の面倒を一時見てほしいといった依頼が増えている」という。

大和総研の市川拓也主任研究員は「シェアリングサービスが国内で広がったのは08年秋のリーマン・ショック後だった。コロナの収束までに時間がかかれば所得はさらに減る可能性があり、長期で見ればモノ・サービスは所有から共有にさらに移っていくだろう」と予測する。