次世代無線普及へ足がかり 省エネ・広域「LPWA」

2020年05月12日日経新聞

  

次世代無線技術の1つ「LPWA」の商用化が始まった。高速大容量の「5G」とは対照的に通信量は小さいが、省電力・広域通信が特徴で、携帯電波が届かないような山間部でも利用可能だ。公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)を中心とする産学公連携グループはLPWAの大規模実証試験に取り組んでおり、普及への足がかりをつかみつつある。

2月12日に茅野市内で開催されたLPWAの研究報告会。産学公連携事業「スワリカブランド創造事業」の取り組みの成果が紹介され、担当する公立諏訪東京理科大学の小林誠司・特任教授と地元の様々な中小企業が開発した通信機器の仕組みを解説した。

その1つが河川水位計測装置だ。圧力センサーで水位の変化をとらえ、その情報をLPWAの無線技術を活用して送信する。乾電池で長期間作動する。装置を取り付けたポールを地面に打ち込むだけで簡単に設置できる。

キーとなるLPWAは携帯の電波に比べて広域通信が可能で、消費電力も小さい。通信可能距離は最大で約100キロメートルとされており、実証試験の舞台となっている茅野市でも20キロメートルは可能という。一方、携帯電話の電波の届く距離は、条件によって異なるが500メートルから2キロメートル程度とされる。携帯が利用できない山岳地域で威力を発揮しそうだ。

試作した装置は、太陽電池で駆動する従来の河川水位計測装置に比べて安価で、4分の1程度のコストで済むとみている。茅野市内5カ所に6台設置して性能などを確認中だ。

2020年度は水害被害の軽減を目指して河川水位の事前予測システムに発展させる計画だ。収集した水位データを雨量計のデータとともに人工知能(AI)で解析する。河川の下流域にある市街地の河川水位が、どこまで上昇するのか事前に予測する。

公立諏訪東京理科大学と茅野市は今年夏ごろから秋にかけて、予測アルゴリズムの研究開発コンテストを開催する予定で、現在準備を進めている。精度を競い合うことで実用化を加速させる。

計測装置は山岳地帯に近い河川なども含めて50台程度増設する計画。データを公表し、予測アルゴリズムを開発してもらう。

また研究者が参加しやすいようにAIの学習モデルに特化した専用サーバーなどでNTT東日本の支援を受けるという。 2019年は日本各地で風水害が発生し、甚大な被害が発生した。長野県内も同様だ。

小林特任教授によると、茅野市内では大雨から小雨になった時点で河川水位がピークを迎えたという。小雨になってからも水害を警戒しなければならないということだが、AI予測で事前に水位上昇の状況を把握できるようになれば、防災対策に役立つ。小林特任教授は「世界の英知を結集し、地方の災害防止に役立てたい」と説明している。

諏訪理科大を中心とする「スワリカブランド創造事業」では、省電力・広域通信可能というLPWAの特徴を生かして多種多様な実証試験を展開している。登山者や外出した高齢者の位置を把握する見守りシステム、農業用ハウスの温湿度センサー、シカのわなセンサーなどにLPWAを活用しようとしている。遠隔地にいても情報を把握できるようにする。

見守りシステムの実証試験では長野・山梨県境にそびえる八ケ岳への学校登山で使用してもらっており、刻々と変化する位置を把握できることを確認できている。携帯電波が届かない場所でも遭難時や傷病者の正確な位置の把握につながり、捜索や救助活動に役立つ。

現場で広く利用してもらうためのアイデアも欠かせない。実証試験は技術の確認だけで終わってしまうことも多い。小林特任教授も「LPWAの技術とは違うところで苦労がある」と話す。

例えば高齢者の位置把握システムでは、認知症の人でも携帯してもらえる工夫をこらした。地元の発想で、LPWAの発信装置を伝統工芸品の裂織(さきおり)などで作った「お守り袋」に入れ、試してもらう計画だ。

農業用ハウスの温度の遠隔計測では、太陽の日射が当たって異常な高温を示すことがあった。気象用温度計はファンを回すが、低消費電力というLPWAの特徴を生かせない。そこで短時間だけファンを回して温度の低下傾向を予測し、正確な温度を計測できる技術を考案し、実証試験を繰り返す。

LPWAの実証試験は今、新技術の「死の谷」の克服という時期かもしれない。小林特任教授らはこうした開発コンテストやアイデアでLPWAの技術を磨き、2020年度中に実用化のめどをつけたい考えだ。