現役世代の「女性の孤独死」が増えている…離婚、仕事の厳しい現実

2020年04月19日現代ビジネス

 

わが国では年間約3万人が孤独死し、1000万人が孤立状態にある。

一般社団法人日本少額短期保険協会の「孤独死対策委員会」が発表した第4回孤独死現状レポートによると、孤独死する人の平均年齢は61歳で、その8割は男性が占める。

しかし、長年孤独死の取材にあたっていると、女性の孤独死も近年増加傾向にあるという実感がある。

孤独死するまでのきっかけは人それぞれだが、亡くなった女性たちに共通して感じるのは、生きづらさを抱えていながら、誰にも助けを求めることができず、静かに社会から孤立していたということだ。

今、女性たちに何が起きているのか――。現役世代の女性の孤独死の事例から見える、日本社会が抱える問題点について紹介したい。

孤独死する人には特徴がある。

その8割近くが、セルフネグレクト(自己放任)という状態に陥っているということだ。

セルフネグレクトとは、部屋がゴミ屋敷化したり、飼いきれないほどのペットの多数飼い(アニマルホーダー)、アルコールや医療の拒否など、自らをゆっくりじわじわと「殺していく」行為である。

女性がセルフネグレクトに陥るパターンとして、ひとつには離婚による精神的ダメージが引き金となるケースが挙げられる。

ある30代の女性は、離婚後アパートで一人暮らしを始めてから、わずか3か月で孤独死してしまった。

女性は、何らかの理由で子供の親権が夫に渡ってしまい、子供と夫と一緒に住んでいた家からの退去を余儀なくされたらしい。

その結果、引っ越し先の古ぼけたアパートに引きこもるようになる。孤独に打ちひしがれた女性は、雨戸をピッタリと閉め、寝たきりのような生活を送っていた。

まるで全ての辛い出来事から目をふさぐかのように、押し入れに布団を敷き、その中で寝起きするようになった。子供と引き離されたショックが大きかったのは明らかだ。

女性の居室には、大手引っ越し会社の段ボールが荷解きされることなく、山積みになって放置されていた。女性の心境を考えると、在りし日の思い出の欠片に触れることは、傷を抉り出すような作業だったに違いない。

孤独死の現場を取材して、よく遭遇するのが、このように引っ越したままの状態で放置された段ボール箱の山だ。これは男女ともに共通だが、中にはたいてい、子供の写真やアルバム、おもちゃなどが詰まっている。

「子供を取られた」という絶望感があまりに大きく、自暴自棄となり、心身ともに追い詰められていったのだろう。

別のある30代の女性は、2DKの分譲マンションで孤独死していた。

女性は、20代で職場結婚して一人娘を出産。しかし、その後アルコール依存症が原因で、離婚する。前述の女性と同じく、子供の親権が夫に渡ってしまった。離婚後は、貯金を切り崩しながら、家に引きこもるようになった。

床にはお酒の空き瓶が何本も打ち捨てられており、亡くなる寸前まで女性はお酒を手放さなかったことがうかがえる。

部屋には禁酒やカウンセリングの本などが無造作に置かれていた。女性はなんとか、アルコール依存症から立ち直ろうと1人で葛藤していたが、難しかったようだ。

女性の「働き方」が孤独を招く

また、女性の孤独死の引き金として顕著なのが、働き方との関係だ。

例えば、ブラック企業でハードワークのあまり不摂生になり、体を壊して、若くして命を落としてしまうことも多い。また、派遣社員などの流動的な働き方が災いして、恒久的な人間関係を築くことができず、亡くなっても長期間見つけてもらえないケースもよくある。

例えば、ある42歳女性は派遣社員の事務職だった。

女性は、お盆の連休明けに孤独死したが、死後1か月見つけてもらえなかった。親族とも疎遠だったため発見が遅れ、白骨化した女性の遺体には、同居していた愛犬に体の一部を食べられた跡があった。

女性は派遣社員のため、数か月ごとに派遣先が変わった。ただでさえ入れ替わりが激しい職場で、連休明けに職場に出勤しなくても、女性を心配して訪ねてくる人はいなかったのだ。

また、別の40代の女性は、在宅でネット販売の仕事を手掛けるノマドワーカーだった。

居室には、何百ものブランド物のバッグやキャリーバッグなどがあって、金銭的には不自由した形跡はなかった。しかし、女性は仕事だけが生きがいで、異性関係はおろか、友人や親族などの人間関係も希薄だった。

冷蔵庫の中は空っぽで、大量のカップラーメンが段ボールに入っており、残り汁の入った容器がそのまま机の上に放置されていた。

女性は仕事以外の人間関係がなく、買い物依存に陥り、なおかつ不摂生な食生活を送っており、セルフネグレクトから孤独死という道へ一気に突き進んでしまったと考えられる。

ある40代女性からの「SOS」

私の書いた孤独死の記事を読み、SNSを通じてSOSをくれた女性がいる。九州某県に住む佐藤道代さん(仮名・46歳)だ。

道代さんもまた、仕事によって心身を病み、セルフネグレクトに陥って孤独死しかけたという。

彼女からのメッセージは、「私も今ゴミ屋敷で、孤独死するかもしれません。まだやり直せますか?」というものだった。電話で話すうちに、すぐに彼女が置かれている状況の深刻さを察知し、私は居住地である九州に向かった。

待ち合わせ場所まで迎えに来てくれた道代さんは、洋服から浮き出た骨がわかるほど、やせ型の女性だった。

道代さんの案内で、マンションの4階にある六畳一間の部屋にお邪魔することにした。ドアを開けると、40度近いほどのむわっとしたサウナのような熱気が押し寄せてきた。

部屋の中に、天井近くまでうずたかく積もったゴミの山が見えた。そのほとんどが、数百本はあろうかという500mlの空のペットボトルやコンビニ弁当のプラスチックゴミだった。

話を聞くと、道代さんは近くのコンビニで毎日冷凍ペットボトルを買って体を冷やして、何とか真夏の灼熱地獄を生き延びているのだった。

孤独死の現場を長年取材していると、道代さんのようなゴミ屋敷で亡くなっているケースは多い。夏場はゴミ自体が熱を持つため、ゴミ屋敷の室内はすさまじい温度となる。片付ける気力さえ失った中、衰弱して熱中症などで孤独死してしまうのだ。

左遷、配置転換で燃え尽きてしまった

道代さんは高校卒業後、サービス関係の一部上場企業で営業職として働いていた。男勝りな性格の道代さんは、1年365日、朝から晩まで休みなく働き続けた。

しかし、左遷による配置転換などがきっかけで心を病み、傷病手当を受けながら休職。仕事によって燃え尽きた道代さんは、家に引きこもるようなっていく。

部屋がごみで溢れるようになったのはその頃からだ。1年が経過すると、45kgあった体重も33kgまで落ちていた。

道代さんは、私が紹介した支援団体や行政サービスなど、様々な人の手を借りることによって、何とか孤独死は免れた。部屋のゴミも全て撤去し、現在は生活保護を受け、生活を立て直している。

印象的だったのは、道代さんが社会復帰できない自分をしきりに責めていたということだ。

そして、「これまで誰かに助けを求めることができなかったのは、バリバリ働いていた在りし日の自分を捨てきれなかったせいだ」と教えてくれた。思うように体が動かないのに、「まだ働ける」という思い込みが、助けを求めることを邪魔していたらしい。

見ず知らずの他者である私が道代さんの状況を客観的にみると、彼女がもはや働くというレベルではないほど衰弱し、命にかかわる状態に陥っているのは明らかだった。

道代さんは、外部にSOSを求め自己開示をし、「働くことのできない自分」を自分で認めることで、命を落とさずに済んだ。

しかし、それは希少なケースであると言わざるを得ない。

誰でもいい、助けを求めてほしい

2020年2月6日付のNHK「NEWS WEB」は、兄弟の困窮死という事例を特集し、お茶の間に衝撃を与えた。

NHKの取材によると、2019年のクリスマスイブ、都内の団地の1室で、72歳と66歳の兄弟がやせ細った状態の遺体で発見された。

異臭がすると通報があり、警察が駆けつけると、すでに死後4日から10日が経っていたという。部屋にはわずかな小銭があっただけで、電気とガスは2か月以上前から止められていた。

一番の問題点は、この兄弟の窮状を近隣住民はもちろん、行政関係者でさえも全く知らなかったという点だ。

実は、このような困窮ゆえの孤独死は氷山の一角である。特に現役世代は、介護保険や地域の見守りなどの行政サービスから見落とされやすい。

窮地に陥ったときに、他人に助けを求められるか否かが、生死を分けるのは確かだ。しかし、その気力すら亡くなり、崩れ落ちてしまう人達がわが国には無数にいて、孤独死が日々起こっているという、いかんともしがたい現実がある。

一人で家で亡くなること自体は、決して悪いことではない。しかし社会的孤立や貧困の結果、転げ落ちた人が二度と戻ってこられず、無念の死を迎えるしかない社会は問題だ。

これから暖かい季節がやってくるにつれ、徐々に孤独死は増え、特殊清掃の件数はうなぎ上りとなる。今年も多くの人の命が奪われるだろう。そうなる前に、誰でもいいから助けを求める勇気を持って欲しい、と心から願う。