非接触センサーで高齢者に負担をかけない 進化する見守りサービスの形

2020年04月14日未来コトハジメ

  

「2025年問題」が現実に迫る中、高齢者の見守りサービスが脚光を浴びている。昨今では、監視を意識させない非接触センサーが登場し、体から離れていても生体データを取得できるようになってきた。そこにAI(人工知能)による解析も加わり、遠隔からの支援体制も整いつつある。2020年代、さらに需要が高まる見守りサービスの最前線に、スタートアップを中心に迫った。

見守りの最先端は非接触センサー×AIへ

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者を迎える2025年を前に、高齢者向けの見守りサービスが活況を呈している。富士キメラ総研の最新調査では、医療・介護・サポートサービスが高齢者人口の増加とともに伸び続け、見守りサービスがその中心になると予測されている。

スマホやIoTの発達以降、デバイスと通信を組み合わせて離れた親族の安否確認を行うサービスが急伸した。当初はカメラやウエアラブルデバイスが多かったが、プライバシーへの配慮や装着の煩わしさから非接触センサーを活用するケースが勃興。生活空間の中にさりげなくセンサー技術を埋め込むことで、高齢者が見守りを意識することなく過ごせるからだ。さらにビッグデータをAI(人工知能)で解析する次世代見守りシステムが躍進している。

スリープテックベンチャーのエコナビスタは、見守りセンサーシステム「ライフリズムナビ+Dr.」を開発。ベッドのマットレス下に設置するセンサーマット(体動センサー)や人感センサー、温湿度センサーといった非接触センサーを用いて睡眠、心拍数、呼吸数などの生体データを1分ごとに収集し、クラウド上でAIによる解析を行う。

ライフリズムナビ+Dr.は医療機関と連携しており、専門医が健康アドバイスを行ったり、毎月レポートを作成したりするなど付加価値が高い。センサー類にはあらかじめ3G回線のSIMカードが搭載されており、設置に特別な工事を必要としない点も強みといえる。

2020年2月には不動産大手のヒューリックと共同で、AI・IoTを活用した「スマートシニアハウジング構想」に着手。ヒューリックが所有する高齢者施設にライフリズムナビ+Dr.を導入し、高齢者のQoL(生活の質)や見守り精度の向上を図る。

IoTベンチャーのリンクジャパンも、AI・IoTによる高齢者見守りサービス「eMamo(イーマモ)」を提供する。同社はIoT関連プロダクトを企画・開発・製造しているが、それらプロダクトとセンサーを介護施設や自宅内に配置することで、あらゆる方向から生活データを取得する。

例えばドア開閉センサー、スマートカーテン、環境センサーといった具合だ。集めたビッグデータをクラウドでAI解析するのはエコナビスタと同様で、データに異常があれば介護事業者や家族、提携する警備会社などにアラートが通知される。2019年7月からは、福岡市の高齢者施設「ハーヴェスト高宮」に正式導入された。

海外組も活発だ。米サンフランシスコのスタートアップ、Tellus You CareはNTTドコモと共同で非接触センサーによる見守りの実証実験を進めている。ベッド脇に設置した小型デバイスが、体の微小な動きから高齢者の歩行・睡眠中などの行動状態、呼吸数・脈拍数などの健康状態を収集。AIでリアルタイムの状態を把握し、介護スタッフが管理画面で遠隔から確認できる。

2019年夏には神戸市の特別養護老人ホーム「山手さくら苑」で実証を行い、一定の成果を収めた。2020年には熊本市において被災高齢者などの見守り支援を行う予定である。

ここまで紹介したサービス以上に自然な形なのが、パナソニックが提供する高齢者施設の居室向け「エアコンみまもりサービス」だ。クラウド対応のエアコンと非接触センサーを組み合わせて、温度・湿度をはじめ、室内での入居者の活動状況や睡眠状態を遠隔のモニタリングシステムで見える化する。これにより入居者の健康管理はもちろんのこと、介護スタッフの業務軽減をもたらす。

このシステムはパナソニックが中心となって運営する神奈川県藤沢市のスマートシティ「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」内のサービス付き高齢者向き住宅「ココファン藤沢SST」で採用されており、「スタッフや入居者にとって大きな安心感、信頼感につながる」との評価を得ている。

最新技術の見守りに医療関係者らのマンパワーをプラス

生体データを計測する非接触センサーでは、マイクロ波ドップラーセンサーが多く用いられる。これは対象者にセンサーがマイクロ波を照射し、反射した電波の周波数を比較することで脈拍、呼吸、体動を検知する仕組みだ。パナソニックのエアコンみまもりサービスでもこうしたセンサーが利用されている。

福岡市に本社を置くワーコンも同様に、ドップラーセンサーを用いて在宅の高齢者を見守るサービス「おるけん」を展開している。代表取締役の青木比登美氏は看護師時代、高齢者の孤立死に2度も直面したことから、そうした悲劇を繰り返したくないとの思いで2016年に起業した。

武器は最新テクノロジーと医療関係者による手厚いマンパワー。高齢者の自宅にルームタイプとベッドの下に敷くタイプの非接触センサーを設置し、生体データをリアルタイムで収集する。取得したデータはワーコンのコールセンターで見守り看護師が24時間監視し、異常があれば即座に対応。基幹病院やかかりつけ医、訪問看護師と提携し、緊急時には迅速に連絡を取り合う。

現在は非接触センサーに加え、NTTドコモ九州、NTTデータ九州、ロボットベンチャーのMJIと共同開発した在宅医療用対話ロボット「anco(あんこ)」を加え、サービス内容を拡充させた。もとになったロボットはMJIが提供している家庭用コミュニケーションロボットの「Tapia」。そこにNTTドコモの「AIエージェント基盤」を組み込み、ワーコンが蓄積した遠隔見守りのノウハウをベースにシナリオを作成し、NTTデータ九州が対話シナリオを完成させた。

高齢者が話しかけるだけで、雑談や簡単な問診が可能だ。例えば、会話の中で「今日は頭が痛い」と返答がくれば、AIが判断してコールセンターにつながり、ancoの顔部分のディスプレイを見ながらビデオ通話ができる。顔を見て話しかけることで、独居高齢者とのコミュニケーションを円滑にする狙いもある。このシステムにより、看護師1人で約200人を見守ることができるという。

青木氏は「簡単に人につながる仕組みがほしかった。ancoが何かをするわけではなく、あくまで優秀なインターフェース。苦しいときに『助けて!』と叫べばコールセンターにつながる安心感は大きい」と話す。

今は福岡市を中心にサービスを展開するが、青森市浪岡地区を舞台にしたヘルステックによる健康まちづくりに、フィリップス・ジャパン、カゴメ、ネスレ日本らと参画。そのほか、横須賀市や熊本市とも連携を開始し、全国各地の開業医から問い合わせが舞い込む。昨今では新型コロナウイルスの影響でオンライン診療システムとしての引き合いも多い。

医療や介護が密接に絡む見守りの領域は、IoTやAIなどのテクノロジーだけですべてを解決できるものではない。高齢者の体調変化を検知した後にどうすべきか。医療関係者のネットワークまでを一気通貫で整備するワーコンのようなスタイルは、これからの見守りに最も求められる姿かもしれない。