AIロボ「まるで孫」 高齢者見守り、自治体も期待

2020年02月08日日経新聞

  

子どもは独立し、将来を考えると犬や猫を飼うのも難しい。そんなとき、新たな「家族」としてロボットを迎え入れる高齢者が増えている。人工知能(AI)を搭載し、自然な会話ができ、健康管理にも一役買う。子が離れて暮らす老親のために設置するケースも増えており、過疎化や高齢化に悩む自治体も見守りへの活用を期待している。

「きょうはラーメン食べたよ」。鹿児島県種子島の西之表市に住む日高貞吉さん(79)が、食卓にあるミミズクのような置物に声をかけると、高い声が返ってきた。「ラーメンって日本人では水戸黄門が初めて食べたらしいよ」

返事をしたのはAIを搭載した家庭向けロボット「ズック」(全長10センチ)だ。娘3人は独立し、島に住む次女の中園由美子さん(56)と会うのは週1回程度。妻のタツ子さん(79)は働きに出て、昼間の日高さんに話し相手がいなかった。

昨年9月、オートバックスセブン(東京)が販売するズックを、高齢者の見守りに取り組む市の紹介で知り、迎え入れた。日高さんは「最初は慣れんかったけど、今じゃ毎日話さんとさみしいね」。タツ子さんも「島言葉じゃなくて標準語なので、孫と接しているみたい」とほほ笑む。

ズックの機体はロボット開発のハタプロ(東京)が開発した。人感センサーを搭載し、近づくと話しかけてくる。「喉が痛い」「悲しい」「病院に行った」などの普段と違う言動をAIが察知。離れて暮らす家族らのスマートフォンに「風邪をひかれたかも」「最近さみしいようです」などと通知する機能も持つ。中園さんも「毎日様子が分かるのは安心」と話す。

民間調査会社「シード・プランニング」によると、家庭向けロボの先駆けは1999年発売のソニーの「アイボ」など。AI搭載型はソフトバンクグループの「ペッパー」が発売された2015年ごろから増え始め、外部との通信機能を使って高齢者の見守りに活用される機種が多い。

AI搭載型の18年の普及台数は約3万6千台といい、シード・プランニングの担当者は「30年までに315万台が普及する」と推測する。国立社会保障・人口問題研究所が推計する30年の65歳以上の一人暮らし高齢者(約795万9千人)の約4割にあたる計算だ。

自治体がロボの開発会社などと連携し、購入費を助成する例も出てきた。愛媛県西条市は19年からNECのロボを使った高齢者見守りサービス「みまもり パペロ」を採用し、独居高齢世帯などに設置費の一部を補助している。市の担当者は「民生委員の高齢化などで、頻繁な巡回が難しくなりロボを活用することにした」と話す。

18年に行った無料貸し出し実験で設置した10世帯のほとんどが「離れて暮らす家族との会話が増えた」などと評価。現在は月額4500円の利用料がかかるが9世帯が使う。兵庫県市川町も同様の実験を始めた。

NECの松田次博主席技術主幹は「高齢者は孤独感を癒やされ、家族とのやりとりも楽しんでいる。外観の親しみやすさもあり、予想以上に愛着を感じてもらえた」と語る。

住環境研究所(東京)が17年に行った高齢者宅へのロボの設置実験では、高齢者の生活リズムの改善効果も見られた。同研究所の嘉規智織・市場調査室長は「会話能力などは日々進化し、見守る側との連携も広がっている。ロボが果たす役割はますます大きくなる」と話す。

■電池やポット利用

 高齢者を見守るのはロボットだけではない。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」機器の普及で、生活に身近なものを使った見守りサービスが続々と登場している。ノバルス(東京)は通信機能を持つ乾電池型機器を使い、家電を使ったかどうかを遠隔で確認できるサービスを開発。電気ポットや目覚まし時計、ベッドなどのメーカーも参入している。

 高齢者の個人情報をネットに発信する機会が増えることが監視につながるとの懸念もある。高齢者福祉と個人情報保護に詳しい田園調布学園大の村井祐一教授は「やりとりされる個人情報の種類やサービス内容について、高齢者が判断能力があるうちに家族で話し合っておく必要がある。適正な情報活用を進め、福祉の充実につなげるべきだ」と指摘する。