「孤独死保険」は多死社会の切り札となるか 2030年の推計死亡者数「年160万人」の衝撃

2018年12月31日東洋経済ONLINE


時代の変化を的確にとらえて、ビジネスに仕上げるのが得意な損害保険業界において、じわじわと注目されてきたのが「孤独死保険」だ。

少子高齢化時代、世の中では「人生100年時代」とボジティブな側面も強調されるが、その最も暗い側面はほとんど語られてこなかった。死亡者数が毎年増えていく「多死社会」という現実だ。

日本少額短期保険協会が2018年3月に出した「孤独死の現状レポート」によると、日本の死者数は2015年で年間129万人だが、2020年には141万人、2030年には160万人、ピークの2040年には168万人と推計されている(推計は国立社会保障・人口問題研究所、2017年出生中位・死亡中位推計)。

孤独死するお年寄りが増えていく

死者数の増加に連動して将来、増加しそうなのが、独り暮らし高齢者の孤独死だ。すでにその兆候ははっきりと現れている。「東京都23区内における独り暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数」は2011年から増加傾向で、2015年には3000人を超えた。23区内だけで1日当たり8.5人もの人が1人きりで亡くなっていることになる。

市場規模や商品の性格から見て、保険会社にとっては大々的に告知するような商品ではないのだろうが、少額短期保険会社に続いて、大手損保も相次いで商品を投入、販売競争に火がつきつつある。

孤独死保険とは、主に賃貸住宅のオーナー向け保険である。

居住者が孤独死を遂げたとき、オーナーには数多くの困り事が発生する。当然だが、事故物件の家賃がまずストップする。清掃や遺品整理、火葬の手配など、急いで手を打たなければならないことが次々と出てくる。そのうち、隣室の住人も「部屋から出て行きたい」「値下げしてくれ」などと言い出すだろう。

良心的なオーナーなら、身銭を切って対応するしかない。逆に昔は事故が起きた物件にオーナーや不動産関係者などの「身内」に1回住んでもらうことで、義務づけられている事故物件の告知を行わないという「裏技」もあったらしい。

だが、さすがにコンプライアンスの時代では、そうした手段に出るオーナーもいなくなった。その分、保険に対するニーズが強まったのも確かなようだ。

孤独死で起きる問題を「原状回復」と「家賃収入」の2つに分けて、保険金で補償するのが、孤独死保険のおおまかな内容だ。2011年に先陣を切って、この商品を発売したのは損害保険会社ではなく、少額短期保険会社のアイアル少額短期保険だった。

少額短期保険とは何か

少額短期保険とは、2006年の保険業法改正で生まれた。保険金額が1000万円以下と少額で、保険期間も1~2年と短期であるため、「ミニ保険」と呼ばれることもある。

アイアル少短の商品「無縁社会のお守り」(賃貸住宅管理費用保険)は賃貸住宅のオーナー向けの商品で、販売実績は2万5000戸に達している。商品開発に着手したのは2010年ごろ。同社の安藤克行社長が当時をこう振り返る。

「孤独死、自殺、夜逃げ……。突然、入居者がいなくなったり、亡くなったりする事例が増えていた。しかし、オーナーが加入できる保険がない。調べてみると、オーナーはみんな同じような懸念を持っている。高齢化社会はわれわれ(オーナー)にとっては怖い話だね、と心配していた」

保険料は月々300円(1戸当たり)で、オーナーが所有するすべての部屋の加入が必要だ。孤独死や自殺などの死亡事故でオーナーが負担する原状回復費用を最大100万円、家賃損失を最長12カ月、200万円を限度に補償する。

「販売は順調に伸びてきた。以前は不動産会社経由での申し込みが多かったが、最近はメディアの記事や広告を見て、直接電話で申し込んでくるオーナーさんが多い」(安藤社長)。最近、部屋の電気使用量から「異常」を推測し、オーナーなど数人にメールで知らせるプランも発売した。

一方、火災保険の特約として販売しているのが大手損保の商品だ。賃貸住宅内での死亡事故(孤独死、自殺、犯罪死など)の発生で、オーナーが被る家賃の損失、清掃・遺品整理費、葬祭費などをすべてカバーする。

現状回復は100万円限度、家賃収入補償は家賃月額(最長12カ月程度)というのが、ほぼ共通する内容だ。家賃補償では、事故発生個室だけでなく、左右、階下など隣室も対象となることが多い。

三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は孤独死保険を共同開発し、2015年10月から販売を開始した。三井住友海上での販売件数は今年10月末時点で1万件を超えている。「特に不動産会社系の代理店からの評価が高い。市場が大家向けなので、件数は限定されるが、販売は順調に伸びている」(三井住友海上火災傷害保険部の安澤翔氏)。

おはらい、追善供養費も対象に

一方、損害保険ジャパン日本興亜は今年8月から販売を開始した。「単身者が多い首都圏がマーケットの中心になっている。火災保険の満期がきたときなどに提案して販売している」(リテール商品業務部の高島拓也氏)。

以前から企業向け商品の1つとして販売していた東京海上日動は、2019年1月から火災保険の特約として販売を始める。「孤独死が身近な問題となり、金融機関ではアパートローン向け火災保険とのセットで販売したいというニーズが高まっている」(個人商品業務部の平尾晋吾氏)と見ている。同社の商品は清掃、消毒のほか、おはらい、追善供養の費用なども支払いの対象となる。

生保に続いて損保でも最近、認知症関連商品の販売を相次いで発表している。孤独死、認知症と続けば、次は介護あたりだろうか。孤独死保険の広がりで、高齢化関連保険の開発・販売競争が本格化していくはずだ。