高齢者の“孤独”に寄り添う ホームネットグループ|高齢者の生活支援サービス

2018年11月16日日経ビジネスDIGITAL


日本社会の高齢化は今や、誰もが知るところだろう。そこに単なる高齢化だけではない新たな課題が加わっている。一人暮らしの高齢者の増加だ。彼らを取り巻くのは「賃貸住宅に入居しにくい」「安否確認ができない」、そして時には「孤独死を招いてしまう」という難しい環境。こうした課題に一気通貫で対応しようとするのがホームネットグループ(東京・新宿)だ。

 もともとは在宅高齢者向けサービスの会社として1991年に設立されたホームネット。そこから始まったのが一人暮らしの高齢者の見守りサービスだ。「見まもっTEL」という名称で事業を展開している。

元気なら1番、不調なら3番

 週に2回、決まった曜日・時間に自動で一人暮らしの高齢者に電話がかかり、元気なら1番、調子が悪い場合は3番を押すといった形で応答してもらう。その操作結果は親族や友人、大家、民生委員、管理会社など事前に登録した最大5件の宛先にメールで配信される。高齢者がもともと持っている携帯電話や固定電話を使えるので、サービス開始時に専用機器を購入する必要がないというコスト面での利点が売りだ。

 だが、ここまでなら大手警備会社も含め似たようなサービスは多い。藤田潔社長は「予防だけではなく、実際に不幸にも孤独死などが起こった時こそ、みんなが困る」と考え、不測の事態が起きた際の対応にまで踏み込んでいる。

 代表例の一つが、2年ほど前から始めた「見まもっTELプラス」。何がプラスされたのか。加わったのは上限100万円の費用補償だ。
 孤独死が起こってしまった場合、その後に待ち受けるのは、異臭を取り除くための特殊清掃などの原状回復作業、遺品整理、葬儀。とりわけ死亡から時間がたって発見された場合は、異臭除去や消毒などに高度な技術が必要になることが多い。これらの費用を100万円まで補償する。このサービスの契約者は、入居者本人でも大家でも不動産業者でも構わない。初期費用は登録料1万円だけで、その後は月額1500円の利用料がかかる。

 さらに同社は、24時間体制のコールセンターも自社で運営する。特殊清掃や遺品整理の業者はどこがいいのか、そもそもどんな手続きが必要なのかといった遺族や不動産業者などの相談に常時対応できる体制を整えている。

 また藤田社長は一般社団法人「家財整理相談窓口」の専務理事も務めている。遺品整理を手掛ける業者は8000とも9000ともされ、廃品回収が本業の業者から、金目の遺品を持ち去る業者もいて、消費者庁への苦情も年々増えているという。亡くなった高齢者の部屋から思わぬタンス預金が見つかると、それを懐に入れてしまう業者もあり、その質は千差万別だという。ホームネットは、玉石混交の中から信頼できる事業者を紹介している。

 なぜ藤田社長はこうした有事の対応にまでサービスを拡大したのか。そもそも藤田社長はホームネットのプロパー社員ではない。もともとは旧大成火災海上保険(現損害保険ジャパン日本興亜)の社員だった。神戸支店や横浜支店の営業を経て本社の企画部門にいた30代前半のころ、大成火災が筆頭株主だったこともあり、ホームネットを担当したのがきっかけだった。

 しかし「会社の仕組みがよく分からない。これは中に入らないとダメだ」と自ら希望して、96年に出向、大成火災が経営破綻した2001年に転籍した。

「孤独死」が起きても対応する

 出向中から感じていたのが「見守りサービスに予防の意義はあるが、孤独死が起こったら何もできない」という問題意識。そこで保険会社出身という経験を生かし、「見守りサービスに事後対応という保険をつけた」わけだ。

 死後の対応だけではなく、一人暮らしの高齢者の賃貸住宅への入居も手助けする。孤独死した場合、不動産会社や大家は家賃をとりっぱぐれることになるので、そもそも一人暮らしの高齢者の入居を嫌がることが多い。そこで手掛けるのが家賃債務保証サービスだ。

 国から家賃債務保証業者の登録を受けたエルズサポートをグループ会社に持っており、孤独死が発生した場合、例えば月額賃料の24カ月を上限に保証するサービスなどを展開する。サービスを利用するには月額保証委託料が必要だが、これは入居者が負担する。このサービスを利用することを条件に家主や管理会社は、一人暮らしの高齢者の入居を認めるわけだ。家賃債務保証と見守りサービスを組み合わせた商品も提供している。

 高齢者向けに家賃債務保証を手掛ける会社は多いが、契約者の無知に付け込んだ強引な回収も散見されるという。一方、ホームネットは「もちろん法的なルールをきちんと守って対応する」(藤田社長)。回収が難しくなる場合もあるが、見守りなどの複合的なサービスで収益を確保する。

 こうして一人暮らしの高齢者が抱える「入居前」「居住中」「死亡後」というすべての局面に対応できる体制を整えたホームネット。高齢化社会の進展を背景に売上高は年々増加している。内閣府の調査によると、15年時点で、65歳以上の女性の21%、男性の13%が独居で、その比率は年々高まっている。「日本の死亡者は年間ざっと130万人だが、その3.3%は孤独死。交通事故や自殺者よりも多い」(藤田社長)。目指すのは超高齢化社会に欠かせないインフラカンパニーだ。