ITで人の目で見守り 認知症と生きる 

2018年09月18日日経新聞

 「自転車に乗って出かけたままおじいちゃんが戻らない」。8月、神奈川県大和市で70代男性の介護支援を担当するケアマネジャーから同市高齢福祉課に一報が入った。約1時間半後、同課の職員が自宅から10キロ以上離れた横浜市の路上にいた男性を発見した。

 迅速な保護につながったのは大和市が2017年に導入した小型の全地球測位システム(GPS)端末の活躍が大きい。男性は自転車に乗って徘徊(はいかい)する習慣があり、家族が自転車の荷台に取り付けていた。高齢福祉課の課長の杉内直は「猛暑で捜すのに時間がかかれば熱中症になっていたかもしれない」と振り返る。

 認知症が原因で警察に届け出があった行方不明者は2017年で1万5863人と5年間で1.6倍に増えた。素早く発見できる体制づくりが急務となる中、様々なIT(情報技術)を活用した「見守り」がある。

 千葉市地域包括ケア推進課課長の石川さゆり(55)がスマートフォン(スマホ)をシールに付いたQRコードにかざすと、高齢者の情報や保護時の注意点が画面に表れた。7月から導入した認知症高齢者の見守りシステム「どこシル伝言板」だ。読み取り時に家族にメールが送信され、発見者と連絡をとってもらう仕組みだ。石川は「衣服やつえなど高齢者が普段から持ち歩くものにシールを貼ることで実効性が高まる」とみる。

 もっとも、デジタルの普及には壁が立ちはだかる。認知症高齢者の世話をする家族も高齢者である「老老介護」ではスマホやタブレットを持たない世帯もある。横浜市港北区の南日吉商店会は昨春から、スマホなどのアプリを使った見守りシステムを導入。会長の小嶋純一(67)は「システムに登録できない人も目立つ。民生委員が登録を受け持つなどの仕組み作りも必要だ」と訴える。

 見守りにはITだけでなく、人の目も忘れてはならない。コンビニ各社で作る「日本フランチャイズチェーン協会」(東京・港)によると、徘徊高齢者を保護した店舗は17年で9千店以上。警察や家族に連絡した対応件数は延べ約1万6千回以上に上った。公益社団法人「認知症の人と家族の会」(京都市)代表理事の鈴木森夫(66)は言う。「認知症高齢者に優しい地域は誰もが住みやすい地域。IT技術を生かすためにも、平素から住民同士の縁をつなげる草の根の取り組みが欠かせない」(敬称略)