マイナンバーカード、高齢者見守りに活用…葛巻町

2018年05月29日読売新聞


 マイナンバーカードの普及が全国的に低迷する中、住民の取得率が16・2%(今年3月1日時点)と県内自治体で最も高い葛巻町では、カードを活用した高齢者の見守り活動を行っている。過疎地の高齢者支援にカードを結びつける取り組みは全国的に珍しいといい、取得率が1割未満の県内でも注目を集めそうだ。

 4月下旬、町中心部から約10キロ離れた山間部の江刈地区で、一人暮らしの蛇塚安子さん(68)は自宅のテレビの前に座り、マイナンバーカードを棚の上の専用読み取り機にかざした。テレビに体調を尋ねる質問が映り、リモコンのボタンで回答すると、情報は町と登録した家族あてにメール配信される。

 2年前の実証試験から使っている蛇塚さんは「これがなかったらカードは作っていない。今では朝の日課で、町外の家族も安心している」と話す。

 町が2016年に始めた「くずまきほっとライン」事業は、65歳以上の一人暮らしの高齢者52人が対象で、保健師らの見守り支援に役立てられている。毎日の健康調査で無回答や体調が「わるい」の回答が2日以上続くと、町から連絡が入る。町内の病院や体育館など5か所にも読み取り機が置かれ、自分や家族が行動履歴を確認できる。今年度から事業主体を民間に移し、対象世帯も広げる方針だ。

 町の高齢化率は44・4%(4月末時点)で、高齢の一人暮らしは全世帯の4分の1を占める。家族が町外に住んでいるケースが多く、毎日の健康状態をメールで確認できるサービスは家族の安心につながり、町にも要支援の高齢者を効率的に把握できる利点がある。

 町健康福祉課の橋場翔さんは「行政の見守りは世帯単位が基本だったが、マイナンバーカードで個人単位の把握ができる」と意義を語る。今後、買い物支援や送迎予約などへのサービス拡大や、若い世代への展開を検討しているという。

 マイナンバーカードの交付は16年1月にスタート。カードは裏に12桁のマイナンバー、表に名前や住所、生年月日などの記載や顔写真があり、公的な身分証明書になる。カードは無料だが、取得率は低迷。総務省のまとめによると全国で10・7%(3月1日時点)にとどまる。

 県内の交付数は12万3958枚で、人口で割った取得率は9・7%。全国を上回るのは4市町だ。普及が進まない理由について、県の担当者は「カード取得の利便性を感じる場面が少なく、周知も浸透していないのが実情」としている。

 県によると、宮古、奥州、一関、花巻市と紫波町では、カードを使ってコンビニ店で住民票などを取得でき、7月には盛岡市でもサービスが始まる。県は今後、葛巻町の取り組みを参考にしながら市町村にサービス拡充を求めるほか、県警と連携して運転免許証を返納した高齢者に作成を呼びかけ、カード取得の利便性の周知に力を入れる。