<特殊清掃業>5年間で15倍増 家族関係の希薄化背景に
2018年05月13日毎日新聞
孤独死した人の自宅を清掃・消毒して原状回復する「特殊清掃業者」が急増している。業界団体によると、全国で5000社以上が参入しており、団体が民間資格の認定制度を始めた5年前から業者数は15倍超に膨らむ。高まる需要の背景に、家族・親族関係の希薄化が浮かび上がる。
特殊清掃業者は故人の住宅の管理人や親族らから依頼を受け、清掃や消毒のほか、遺品整理を請け負うこともある。孤独死の場合、遺体発見まで時間が経過すれば、室内の臭いや汚れがひどくなる。業者は特殊薬品や殺虫剤、電動のこぎりなどを使って室内を原状回復し、感染症予防のため防護服を着て作業することも多い。
業界関係者によると、特殊清掃は一部のリサイクル業者や引っ越し業者が始めたが、近年は葬儀や廃棄物処理など幅広い分野の業者の参入も目立つ。
だが、悪質な業者による高額料金の請求や雑な作業を巡るトラブルも少なくない。こうした業界の健全化を目指し、2013年に一般社団法人「事件現場特殊清掃センター」(本部・北海道)が設立された。
センターは民間資格「特殊清掃士」の認定制度を創設。遺族対応や質の高い清掃方法などをテーマにした約2カ月間の通信講座を受け、試験に合格すると特殊清掃士に認定される。13年は資格取得者が在籍する業者は326社だったが、昨年末現在で5269社まで急増している。
厚生労働省の国民生活基礎調査などによると、16年の1人暮らしの高齢者数は約655万人(推計)で、10年前の約1・6倍に上る。核家族化も影響して孤独死は全国で相次いでおり、特殊清掃業の需要が高まっている。センターの小根英人事務局長(41)は「需要は今後も増える。遺族らに寄り添える業者を育てたい」と話す。
◇孤独死の男性宅に張り紙 「明日もまた 生きてやるぞと 米を研ぐ」
近畿地方を中心に特殊清掃を請け負う「メモリーズ」(堺市)の横尾将臣代表(49)には忘れられない現場がある。
大阪市内の一軒家で8年前、住人の60代男性が風呂場で孤独死した。疎遠だった親族からの依頼だった。
台所や居間には食べかけのコンビニ弁当が散らかっていた。近所付き合いも避けていたという男性。冷蔵庫の扉には、自分に言い聞かせるように黒色のペンで書かれた張り紙があった。「明日もまた 生きてやるぞと 米を研ぐ」
横尾さんは「生きようとしていた形跡を目にすると、こんな最期しかなかったのかと切なくなる」と嘆く。
同社には毎月150件近い依頼があり、その数は約10年前の15倍に上る。
「クリーンメイト」(大阪市生野区)の西村訓典社長(35)も半年前、高齢女性が孤独死した大阪府内の自宅を特殊清掃した。依頼主は関東地方の息子だった。ギャンブル好きの父親と仲たがいし、20年前に家を飛び出して家族と疎遠だった。
電話台の棚から、先に亡くなった父親の言葉を妻の女性が書き留めたノートが見つかった。「(息子に)悪いことをした。もう一度会いたかった」。だが、息子は「家族とは縁を切った」と告げ、室内に残されていた百十数万円の現金だけを受け取った。
西村さんは「どんなに疎遠でも、故人は家族のことを思って生活していたはず。思いがこもった遺品を届けるのも仕事だが、親族から拒まれることも少なくない」と話した。