孤独な60代を襲う、突然死の悲しすぎる結末
50代から始める「孤独死」対策:長尾和宏医師に聞く(2)

2018年04月13日JB PRESS

 
 死んだ後、遺体が誰からも発見されずに数日後に発見される「孤独死」の増加が社会問題になっている。

 2016年の年間死亡者数が130万7748人。全死亡者のうち、自宅で亡くなった「在宅死」の割合は13%で16万9400人。その半数以上が孤独死と推測されている。これは、自殺者の2万1017人をはるかに上回る人たちが警察署に運ばれ、解剖台で看取られているということだ。そして、その約7割は男性である。

孤独な在宅死の実態

――在宅で亡くなる人は増えている?

長尾和宏氏(以下、敬称略) 死亡者数全体の中で、在宅で亡くなる方は約13%、つまり100人に13人が自宅で亡くなるという計算です。

「在宅死」というと、家族に囲まれて最期まで惜しまれながら看取られる穏やかな死に方をイメージするかもしれませんが、すべての人がそのような穏やかな最期ではありません。都市部では、その半数以上に警察が介入しています。

 警察が取り扱う死体のうち、犯罪絡みのものは0.3%、犯罪の疑いがある死体が12%、残りが犯罪とは関係なく送られた死体です。それらの遺体との対面は、警察の遺体安置所や解剖台の上なのです。

 自宅で一人ひっそり亡くなるということも少なくありません。浴槽で大便まみれになって発見されたり、発見から時間が経って、人の区別がつかないぐらい腐乱していることもあります。

 孤独死には明確な定義がないため、特定の地域内の部分的な統計しかありませんが、東京23区だけでも2016年には、4604人が発見が遅れた孤独死となっています。その約7割が男性で、約7割が65歳以上の高齢者ですが、40代、50代でもみられます。

 全国の自殺者数約2万人の中に孤独死はカウントされませんが、病気の治療を受けない、食事をきちんととらない、酒浸りになって薬を服用するなど、限りなく自死に近い「緩やかな自殺行為」といえるケースも少なからずあると思われます。ざっくり見積もっても、20人に1人は孤独死という、極めて身近に起きていることなのです。

――警察沙汰にならないためにどうすれば?

長尾 人はいずれ死ぬことは避けられません。死ぬときは必ず一人なので、一人で死ぬこと自体は自然な流れです。

 孤独死として問題になるのは、警察が介入せざるを得ない状況に至ることです。家族やかかりつけ医が不在で、死因が病死だとすぐに判断されない場合、「穏やかな死」どころか「事件」の疑いがかけられ、警察によって犯罪性があるかどうかの調査である「検視」が行われます。その後、必要に応じて司法解剖が行われ、遺体が切り刻まれることになります。
 それだけでなく、発見が遅れ、遺体が傷んだ状態で発見されると、誰が行うにしても、片づける人にとっては過酷な作業です。発見された部屋の家主や近隣の住民にも迷惑がかかります。

 多死社会を迎え、2040年には160万~170万人の人が亡くなると推測されています。現在、日本で発見された遺体のうち解剖(司法解剖または行政解剖)されるのは1割程度ですが、亡くなる人が増えれば、当然、検視の数も増え続けます。

 今でさえ、警察の遺体安置所は処理しきれない遺体であふれかえっていますので、この状態が続くと、警察も警察医も監察医も手が回らなくなることは目に見えています。不要な警察の介入はできる限り減らすためには、死後、かかりつけ医が異常死でないことを確認し、死亡診断書を書けば、警察の事情徴収や現場検証を行わなくても済むのです。

 自宅に一人でいて倒れたとしても、地域で在宅医療などの定期的な見守りを受けていれば、発見も早く、処置が早ければ命を救うことも可能なのです。

長尾 孤独死で一番注意が必要なのは、60代男性の「突然死」です。上のグラフでも分かるように、65~69歳で一気に死亡数が上昇しています。これは、会社に勤務しているときは会社の健診である程度の健康状態がチェックできますし、70歳になると介護保険で自治体の健康診断でチェックされる機会があります。

 けれども、60~70歳は退職後、外出する機会が減り、一人で家にいることが多くなります。人によっては運動不足や食生活の乱れから、現役時代に患っていた生活習慣病が一気に悪化することが往々にして起こります。

 特に突然死を起こしやすい病気としては、急性心筋梗塞や大動脈解離です。さらに奥さんに先立たれた場合や離婚などで、残された男性の場合、一人の生活で孤独に陥ることが強いストレスとなり、突然死のリスクが一気に高まるのです。

 京都大学健康科学センター長の川村孝教授が、1989年から7年間にわたって突然死した264人を調査し、突然死のリスクを年代・性別ごとに公表しています*1。この調査結果を分析すると、4月の深夜帯、お花見で酔っぱらった夜の中高年男性が最も危険というところでしょうか。

突然死のリスク*1

・女性より男性のほうが3.8倍多く起こる。
・男性では加齢とともに増加(女性はケースが少なく比較できない)
・月別にみると4月が多い(平均的な月に比べて1.62倍)。
・平日に比べて日曜日は1.9倍、土曜日が1.36倍と、週末に起こるケースが多い。
・深夜から未明にかけて起こることが多く、午前0時から3時は、午前9時から12時の1.71倍の確率。
・死因は、心臓血管疾患が半数以上。心不全が100件、急性心筋梗塞が43件。くも膜下出血が41件、脳出血が25件。
・勤務中に突然死する確率は2割弱、勤務外が8割強。勤務外の内訳は、睡眠中が20%、休息中が15%、入浴中が5%、用便中が5%。

長尾 日本人の平均寿命は女性が87歳、男性は80歳と7歳短命です。大企業のトップは多くが男性、医学部の教授も男性が多い。近年、日本では「男女平等社会」の実現に向けて、女性に対して社会的にも手厚く優遇される方向に向かっていますが、男性のほうが実は虚弱で早死にしやすいのです。これは世界各国共通で、WHO(世界保健機関)2013年のデータでも、男性が長生きなのは加盟国194カ国中トンガ王国だけでした*2

*2:2015年のデータでは、トンガも女性の平均寿命が男性のそれを上回った。

――男性は長生きできない?

長尾 厚労省が発表した2017年の高齢者調査では、「百寿者」と呼ばれる100歳以上の人が国内に6万7824人でした。20年間で約8倍にも増えています。現在も増え続けています。とはいっても、男性はそのうちの8197人、9割方が女性です。100歳を超えて「老衰」で長寿を全うする男性は少数です。

 90歳まで生きると、通常は6割の人が認知症を伴いますが、男性の場合、認知症に至る前にがん、心筋梗塞、脳卒中でお亡くなりになる方が多いのです。奥さんが認知症になって夫が介護していたら、あるとき夫ががんや心筋梗塞で先に逝ってしまったということもよくあるケースです。

* * *

 生活習慣病とは、暴飲暴食、喫煙、肥満、運動不足、睡眠不足、ストレスが原因で血圧が上がり、糖尿病になり、脂質異常症になり、さらに悪化してがん、脳卒中、心筋梗塞といった重篤な病気で死に至る。男性女性に限らず、突然死をいかに回避するか、健康に長く生きられるかどうかは、生活習慣病のリスクを少しでも下げるような生活を送ることにかかっているのは言うまでもない。

(つづく)