自治体に浸透する見守り事業、民間との連携が拡大

2018年01月31日新・公民連携最前線

 
 地域の高齢者の異変などに気付いたら、事前に取り決めた行政の連絡先に速やかに連絡・通報する。こうした地域の見守り事業が全国の自治体に広がっている。見守りの対象は高齢者だけではない。障がいを持つ人々、共働き家庭の児童、徘徊する可能性のある認知症患者など、必ずしも自力で問題を解決できない住民は数多い。防犯の観点を含め、市民の見守りは自治体にとって避けて通れない行政課題といえる。

 一口に見守りといっても、手段はいくつかある。上記のような人と人のコミュニケーションをベースにした見守りが一つ。ほかに、ICTを活用した24時間体制での見守り、ICTを活用しつつ住民同士のコミュニケーションで実現する見守りもある。以下、自治体の見守り活動について最新の動向を見てみよう。

民間企業の力を借りる「見守り協定事業」を推進する自治体

 見守り事業として積極的に進められているのが、地域社会において配達や訪問事業、24時間の店舗営業などを行う民間企業と自治体が結ぶ見守り協定の締結である。民間企業が日常業務において、高齢者のなんらかの異変に気付いた場合に自治体に連絡して連携する。街なかに設置したカメラで四六時中監視するのではなく、声をかけたり会話をしたりといった、人と人とのコミュニケーションを保ちながらの、ゆるやかな見守りである。

 最も手広く展開しているのが、2007年に事業をスタートした生活協同組合(生協)で、2017年3月現在で976の市区町村(全市区町村の56.1%)と協定を締結している。同様に、全国に営業職員チャネルを有する生命保険会社(第一生命、日本生命など)も、自治体と連携した高齢者支援として営業職員による高齢者の見守り活動を推進している。

 ほかの例では、東京都が47事業者・団体(2017年9月現在)と「都と事業者との連携による高齢者等を支える地域づくり協定」を締結している(表1)。事業者の業種は、金融や交通、コンビニエンスストア、物流・配達、ライフラインなど13分野にわたり、協定を結んだ事業者の従業員が「新聞がたまっている」「電気メーターの使用量が少ない」など、日頃の業務において気がついたことがあれば、区や市町村に連絡する仕組みになっている。

 福岡県は2013年11月に、セブン-イレブン・ジャパンと「見守りネットふくおか協定」を結んた。同社は全国の自治体との連携を積極的に推進しており、2017年7月現在、見守り協定の締結は1都1府23県376市町村に上る。また、全国店舗の従業員のうち1万419名が「認知症サポーター」の研修を受けている。

 2016年11月には埼玉県の4市(朝霞、志木、和光、新座)が、セブン-イレブン・ジャパンに加えて朝霞・新座の両警察署と協定を締結。認知症で徘徊する高齢者の発見やコンビニエンスストア内のATMを利用した振り込め詐欺被害の未然防止などで連携している。

 こうした取り組みでは、成果も上がっている。「都と事業者との連携による高齢者等を支える地域づくり協定」を締結しているコープみらいの配達員は、80代の独居高齢者宅に配達に行った際、宅配弁当が手を付けられないまま残置されていたのを見て、地域包括支援センターに連絡。警察官が現地に向かったところ、自宅で転倒して動けなくなっていた高齢者が発見された。また、東京ヤクルト販売の従業員は、極寒の中、営業所付近でうろうろしている高齢者を発見。連絡を受けた警察官が本人を保護して調べたところ、近くの施設を抜け出して徘徊していたことが判明し、無事施設に戻ることができた。

 もちろん、過疎化が進みコンビニエンスストアさえあまり数がない地域もある。車を運転できない高齢者は食品や日用品の買い物すら困難な状況だ。こういった環境においては、買い物代行などのサービスを通じて行う見守りが機能する。ヤマト運輸は自治体との連携協定によって、宅配時に高齢者の状況を確認する見守りと買い物代行を連動させた「まごころ宅急便」を展開している。黒石市では、市からの刊行物を宅急便で発送・配達することで、サービスドライバーが定期的に高齢者宅を訪問している。配達時の情報(配達完了・不在)は自治体にフィードバックされ、対面手渡しができなかった対象者には、市の職員が連絡・訪問している。

ICTを活用した24時間365日の見守り事業

 ただ、ここまで見てきた人と人のコミュニケーションに基づく見守りは、リアルタイム性に欠ける。何か起こっていても、即座にそれに気づけるとは限らない。そこで有効なのがICTを活用した見守り。24時間体制での見守りが可能になる。

 ICTを活用した見守りを実践している例としては、伊丹市の「まちなかミマモルメ」がある。市内の電柱などに街なかにビーコン受信器を配備し、子どもや徘徊する認知症高齢者などの位置情報を保護者・近親者などに知らせる仕組みである。

 これは阪神電気鉄道との連携で進めている事業で、子どもや高齢者にコイン型電池で長期間使えるビーコン発信機を持たせている。発信機を持った子どもや高齢者が設置された受信機に近づくと、通過履歴がサーバーに送られる。市民ボランティアが持つスマートフォンも受信機にできるので、幅広い範囲で通過履歴を得ることができる。

 伊丹市によると、受信機と防犯カメラは市内1020カ所に設置されている(図2)。加えて、アプリを入れたスマートフォンを持つ市民ボランティアは約1000人いる(2017年7月現在)。導入した結果、2016年11月末までの街頭犯罪・侵入犯罪の認知件数1405件となり、2015年11月末の1782件から21.2%減少した。この数字は、兵庫県全体の認知件数の減少率15.2%を上回っている(表3)。伊丹市では、将来的に同事業の成果として2019年までに街頭犯罪・侵入犯罪を半減させ、2014年に19万7580人だった定住人口を2019年には20万人とすることを目指している。

 東京都・墨田区で行われているアサヒ飲料と情報通信研究機構(NICT)の実証実験では、電柱に加えて街なかにある自動販売機も利用している。区内に設置しているアサヒ飲料の自動販売機のうち約100台に無線ルーターを搭載し、近隣を通過したビーコンの履歴を家族のスマートフォンやパソコンに伝える。

 ICTを活用した見守りのメリットは、前述したとおり、リアルタイムに状況を伝えられる点。これを生かすと、交通安全などの見守りも実現できる。例えば墨田区では、見通しが悪く飛び出し事故の多い交差点付近を走っている子供の存在を、通りかかる車両にいち早く通知することを目指している。

 では、自動販売機や電柱などが少ない地域ではどうするか。この場合は、見守り対象自身が位置情報を発信するようにするか、その位置を探索する仕組みを作るしかない。こうした場面で期待がかかっているのが、低コストかつ省電力で広域をカバーできるIoT向け無線通信規格LPWAである。見守り対象自身に位置情報を知らせる機器を持たせる場合や、対象者を探索して通知する仕組みを作る場合に、通信費を抑えられる。

 この取り組みの例が鹿児島県肝付町。人口1万5000人で、年齢別の人口構成が2060年に予測される日本の人口構成に似ているといわれる。同町は2016年12月、GPS(全地球測位システム)による位置情報取得機能を組み込んだLPWAデバイスを高齢者に持たせ、捜索できる環境を検証した。また、2017年3月に南相馬市で行われたドローンによる見守り実験では、自動航行飛行するドローンが地上にいるビーコンを持った捜査対象者を発見し、その位置情報をLoRa規格のLPWAで送信する仕組みを採用した。 

 ICTを活用することで、人と人の助け合いを促進する見守りもある。セーフティネットリンケージの「みまもりあいプロジェクト」では、見守りたい高齢者や子供の服に固有の番号が振られたステッカーを縫い付けておく。スマートフォンを持った協力者が、行方不明になった対象者を見かけたら決められたダイヤルに電話で連絡をするが、その際にはお互いの個人情報が守られるので、家族を探す家族にとっても利用しやすい。

見守り以外の用途にも利用できる仕組みに注目

 自治体では見守りの仕組みを導入したくてもそれだけでは予算化が難しい場合が多い。そこで、いかに他のサービスとひもづけるかが課題になる。例えば介護予防などヘルスケアから防犯にも活用できるような仕組みである。

 2013年に総務省の ICT 街づくり推進事業で「ICTを活用した見守りの街糸島」が採択された糸島市では九州大学と連携し、高齢者や子ども、女性を中心にした希望者約2万5000人に IC カードを配布した。ICカードの用途は、高齢者や子どもの見守りだけでなく、買物難民向け御用聞きサービス、スマートコミュニティバスサービス、防災訓練、災害時は住民の安否確認、子どもの引き渡し、避難誘導などにも活用されている。