高齢者見守り AIで手軽に 東大阪のセンスプロ、近畿大と
2018年01月23日日経新聞
研究開発型スタートアップのセンスプロ(大阪府東大阪市)は近畿大学と共同で、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術と人工知能(AI)を使った独居高齢者の見守りサービスを開発する。専用の通信機器で冷蔵庫など家電の使用状況を見える化し、AIの解析で生活パターンの崩れを察知。設置がたやすく一般的な同種サービスより低額で利用できる点が特徴で、2019年以降の実用化を目指す。
センスプロが新サービスに使う専用の通信機器は横45ミリ、縦85ミリ、奥行き30ミリと「手のひらサイズ」。電源タップの要領で壁にあるコンセントに差し込み、テレビや冷蔵庫など使用頻度の高い家電製品を1つ選んで電源コードを機器につなげば設置が完了、工事は不要だ。省電力で広域な無線通信が可能なシステム「LPWA」でつないだ家電の消費電力量の変化をインターネットで近大のサーバーに送信する。
サーバーに蓄積されたデータはAIが解析し、専用のアプリを取り込んだ高齢者の家族などのスマートフォン(スマホ)に状況を通知する。早朝に冷蔵庫の牛乳を飲んだりテレビを付けたりする高齢者ならば、使用パターンを踏まえて深夜の使用を感知した場合に体調の異変を予測し、危険度を「正常」「不安定」「異常」などおおむね3段階で判定、通知する。正常か否かを知らせる一般的な他社サービスと異なり「不安定」な状況を察知し、きめ細かな通知で異変発生を未然に防ぐ。
センスプロは4月にも東大阪市の助成金などを充てて1年間の実証実験を始める予定で、大阪、東京を中心に約400人の高齢者のモニターを募る。モニターに機器の使い勝手を確かめるほか、異変を通知したときの健康状態を聞き取る。
近大理工学部でAIを専攻する半田久志准教授がモニターの生活パターンを解析するほか、実験で蓄積した異変に関するデータや聞き取り結果も加味してAIによる異変察知などの精度を高める。スマホのアプリ開発も同学部が担う。
実験結果を踏まえ19年以降の実用化を目指す。新サービスはきめ細かな通知のほかに、機器の設置や契約手続きが簡単で、利用者の負担が少ない点も特徴だ。
専用の通信機器の製造は外部委託してコストを抑え、データ通信費はセンスプロが通信事業者と一括契約する。機器1個あたりの通信費は年600~700円、LPWAのモジュールは500~800円で済み、利用者が負担する費用(3年間)はセンサーの買い取り代のみの1万円を想定する。月額数千~1万円の一般的なサービスより大幅な負担低減につながる。
機器は販売代理店契約を結んだ地域の介護サービス事業者を通じて販売する。例えば介護事業者の場合、デイサービス(通所介護)などを週数回利用する高齢者に機器を販売し、巡回・駆けつけサービスに活用できる。介護業界の人手不足が慢性化する中、新サービスは事業者の収入拡大にもつながるとみる。
65歳以上の独居高齢者は全国的に増加傾向にあり、大阪府内でも52万人に達する(15年国勢調査)。センスプロは潜在需要は大きいとみて、事業化後は当面、1万台の販売を目指す。機器の販売のほかに代理店から経営指導料を受け取り、近大理工学部にも研究費などとして還元する意向だ。
▼センスプロ パナソニックのグループ企業、パナソニックデバイス日東(京都府京田辺市)でセンサー技術者、取締役工場長を務めた中村俊昭氏が同僚とともに2016年5月に創業。大阪府東大阪市内にあるインキュベーション施設「クリエイション・コア」に本社を構える。センサーとインターネットを活用したシステムの開発に強みを持ち、温度や湿度を管理して農作物への水やりを自動化する装置を製品化。同装置を応用した家庭用の「ミニ植物工場」なども開発中だ。研究開発に特化して機器の生産や販売は他社に委託する。従業員は6人、売上高は5千万円(17年12月期実績見込み)。