食材の鮮度を維持できる真空チルド宅配ボックスなど、日立がスマートライフ事業に本腰
2017年11月07日家電Watch
日立製作所は、同社の「スマートライフ事業」の取り組みについて説明した。同社では今後、「360°ハピネス」をスローガンとして、スマートライフ事業に積極的に取り組んでいくという。日立製作所 理事 生活・エコシステム事業統括本部長 中村晃一郎氏が、具体的な事業内容、及び今後の方向性について説明した。
日立製作所では、注力4事業として「電力・エネルギー」「産業・流通・水」「アーバン」「金融・公共ヘルスケア」を掲げるが、そのうち家電事業は、生活・エコシステムとして、「アーバン」分野に含まれる。生活・エコシステム事業統括本部長 中村晃一郎氏は、家電事業に関して、「全体の売り上げでは約6%と多くはないが、日立ブランドを背負って、広く一般の皆様に知られる事業」として、引き続き注力していくとした。
家電事業を担う生活・エコシステム事業統括本部は、家電の開発・販売、空調の販売・サービスを担当する日立アプライアンスと、家電の販売・サービスを担当する日立コンシューマ・マーケティングの2社により構成されてる。
「事業統括本部といっても、3月末までは売上の区分などを分けるために作った、バーチャルな組織だった。しかし、今後、競争がより一層激しくなると予想される中で、製販一体の体制が求められるとして、4月1日からは日立アプライアンスとコンシューマ・マーケティングをまとめる専任の統括本部としてアサインされた」という。
同統括本部では、家電事業に関する収益性の向上と、社会イノベーション事業の推進をミッションに掲げる。
「家電は日立というブランドのファンを作るという意味で、前線で取り組むべき事業だが、その一方、収益性が全社的に見ると低い。17年度でも改善しているが、今後さらに改善に取り組んでいく。一方の社会イノベーション事業に関しては、従来は、企業や政府相手に事業を進めていたため、生活者から見たとき何をしているのかが見えにくかった。今後はもっと一人一人の暮らしに寄り添った社会イノベーション事業を進めていくべきとし、その取り組みの1つがスマートライフ。4月1日にスマートライフ本部を立ち上げた」
「360°ハピネス」というスローガンは「日立が実現したい未来にむけてのキーワード」だという。
「嬉しい、幸せ、楽しいなど、ポジティブな意味があるハピネスという言葉に、生活の全方位、360°にむきあい、一人一人にうれしいくらしを提供するという意味を込めた。多様化する現代において、暮らし、年齢、健康状態などいろいろな人がいるが、特定のターゲットではなく、すべての世代に幸せなものを提供していきたい。それは、これまで日立で扱ってきたハードだけではなく、サービス、プラットフォームなど、多岐にわたるだろう」
このタイミングで、新しいスマートライフ事業の領域を拡大することについて、相当なチャレンジであるとした。
「これは、単なるかけ声ではなく、社員にもこの価値を徹底していきたい。我々も退路を断って、結果を出していくしかないという覚悟がある。少子高齢化の社会構造の未来を考えると、これまでの家電製品のような売り切り買い切りのビジネスだけでは、先細りになっていくのは明らか。モノからコトへと、大きな流れの中で、それ以外のビジネスを考えていく必要がある。我々にとって、相当なチャレンジではあるが、それをあえてやるという気持ち」
また、360°ハピネスというキーワードを掲げ、全方位に対応、特定のターゲットも設けないということの狙いについて聞いた。
「スマートライフ事業は未知数で、どういう広がりがあるかわからない。そういった状況で、ターゲットを作ると可能性を狭めてしまうことにもなりかねない。まずはフルオープンの状態でスタート、結果的にターゲットができてしまうかもしれないが、目指すスタンスとしては、360°、全方位でありたい」
「洗う」「冷やす」「料理する」「安心してつかう」「見守る」の5つで具体的なプラン
同社が目指すスマートライフに関しては次のように語る。
「人生100年時代に突入して、人々の生活は益々多様化している。そして、デジタル化の加速により、人々の暮らしが大きく変わっていく。シニア世代、子育て世代、そして単身でくらすお年寄りとその家族など、それぞれ違うニーズがあり、それぞれのスマートライフの実現が求められている。日立が扱う家電には、すでに様々なセンサーが組み込まれており、これらを有効に活用することで、一人一人の暮らしに寄り添った新たな価値を提供できる」
スマートライフの現況に関して「今はまだ夜明け前、ただ、実現できるだけの技術は揃っている」とした。一方、スマートライフ事業の具体的なトピックとして、「洗う」「冷やす」「料理する」「安心してつかう」「見守る」の5つを挙げた。
まず「洗う」という取り組みでは「従来の当たり前を覆すようなプラットフォームを作る」として、家電が家の備え付けになっていて、電気や水道のように家電を使える仕組みを提案。外部の業者とも連携していき、例えば「今日は洗濯物をしたくない(できない)」というときは、すぐに業者に依頼できるほか、衣類の傷みを洗濯機が検知、新しい衣類が自動で家に届くような仕組みも想定する。
「着たいときに着たいものがあればいい、洗うのはそのための手段、段取りでしかない。我々が目指すのは、水道や電気と同じように家電が備わっているという状況であり、当たり前と思っていたくらしの習慣が変わる。これを実際に進めるかどうかはともかくとして、新たな生活シーンを描いていく、こういう発想が大事だと考えている」
「冷やす」「料理する」という取り組みでは、オーブンレンジに向かって食べたい料理を話しかけると自動でレシピがダウンロード、食材もすぐに発注、配送されるような仕組みを想定。また、冷蔵庫もWi-Fiでつながっており、庫内のカメラで食材を管理、足りない食材があればすぐに配送される、その際、配送された食材を新鮮なまま保存できる仕組みとして、日立の冷蔵庫にも採用されている「真空チルド」技術を搭載した宅配ボックスなども提案する。
また、「安心してつかう」というトピックでは、運転状況を検知して、事前に故障を察知するシステムなどを挙げる。
「見守り」では、家電に搭載されているセンサーが生活者の様子を知らせてくれる「様子見サービス」を想定。高齢者の見守りサービスにおいてはプライバシーの保護が話題に上ることが多いが、日立のサービスでは、高齢者の動きや姿勢などから状態を検知するため、対象者を24時間カメラで監視するようなサービスとは一線を画すという。また地域に密着した町の電気屋さんなどと、連携することで、離れて暮らす家族が、電気屋さんに様子見を依頼できる「様子見サービス」も提案する。
これらのサービスは、今後の取り組みに向けたコンセプト的なものもあるが、事業化に向けて進めているものもあり、「年内にはなんらかの成果を出していきたい」という。
すでにスタートしている取り組みもある。住宅メーカーのサンヨーホームズと共同で、屋内移動支援ロボットと画像解析システムを活用した、高齢者向け生活支援サービスの実証をこの11月より開始。高齢者の健康維持を目的とした実証で、約100人のデータを取得、検証していくという。
「パナソニックやソニーも高齢者向けのサービスを展開しているが、両社のサービスは介護が必要なケアシニア向けのもの、我々のサービスは、アクティブシニアが介護に至らないための、生活を楽しめるものを目指す。そこが大きな違い」だと語る。
既存のプラットフォームではなく、自社のシステムを活用
また、これらの取り組みの根底にあるプラットフォームとして、自社の「Lumada」を利用、さらに日立が目指すスマートライフの象徴的な存在として、コミュニケーションロボット「マグナス」を挙げる。
「お客さまにつかっていただけるオープンなプラットフォームソリューションを目指し、家の中だけでなく、家と街をつなげていくような仕組み作りを目指す。マグナスは、情緒的なコミュニケーションが取れるロボットであり、はなしかけると、返してくれる」
AmazonやGoogleなど、すでにあるAIプラットフォームではなく、自社のプラットフォームを使うことに関しては、日立ならではの強みを活かしていくと語った。
「Amazonは小売をやっているので、お客様との接点でいうと、圧倒的な強みがある。そこと、ガチンコで対抗していくということはしない。もちろん、お客様にとって便利なことが一番なので、時にはGoogleやAmazonのプラットフォームに乗ることも必要だろう。しかし、音声認識などの技術、AIやビックデータの解析という点でも日立には日立の技術、財産がある。そこをどう活かしていくか。単なるサプライヤーになってしまってはいけない」
生活・エコシステム事業統括本部長 中村晃一郎氏は、今回の取り組みについて「基本の原点として、良い商品を作って出すというところがある。それが大前提であり、スマートライフ事業は、我々のビジネスフィールドを進化させていくということ」と話した。