入浴中の異常を検知 静岡の会社がセンサー開発

2017年09月22日中日新聞

 
 高齢者の浴槽内での溺死事故が後を絶たない中、医療機器メーカーのメディカルプロジェクト(静岡市葵区)が、入浴中の呼吸や心拍数を計測し、異常を検知したら警報音を鳴らして自動的に湯船を排水する装置「浴槽見守りセンサー」を開発した。いち早く自動で風呂の水を抜き、事故を防ごうとする画期的な商品となりそうだ。

 高齢者施設から「入浴中の異変に気付くのが遅れ、危険な状態になるケースがある」と相談されたことをきっかけに、四年がかりで完成させた。

 装置は浴槽下に設置したセンサーで入浴中の呼吸、脈拍を感知。一分間の呼吸八~二十八回、脈拍四十~百三十回の正常値を超える状態が二十秒以上続いた場合、コントロール装置がアラームで異変を知らせ、浴槽の水を自動排出する。

 開発では、浴槽越しに伝わる微細な拍動を検知するため、センサーの内部構造の改良を続けた。人の出入りや湯の流れなどさまざまな振動の中から、脈拍や呼吸だけをセンサーで読み取るための情報処理にも苦心を重ねた。

 昨年十一、十二月に神奈川県厚木市の高齢者施設で実証試験をしたところ、利用した三十一人全員の呼吸、脈拍を正確に検知することができ、商品化のめどが立った。

 高齢者施設向けに住宅設備メーカーと販売準備を進めており、来年三月の発売を目指す。価格は十数万円で、自動排水装置は別売り(価格未定)。センサーを浴槽下に置く工事が必要となるため、浴槽の底に敷くだけのマットタイプのセンサーも発売準備を進める。

 担当したメディカルプロジェクトの小林信明本部長は「これまで溺死事故の防止策といえば、浴室や脱衣場を事前に暖めておくとか、長湯はしないといった注意喚起を促す程度だった。この装置が全ての異常を正確に検知できるわけではないが、多くの事故は防げるのでは」と説明する。

 東京都市大人間科学部の早坂信哉教授(入浴医学)は「浴槽で体調が急変して溺れた場合、救命の時間的な猶予は二、三分しかない。この装置は水を抜いてしまうので、入浴中に倒れても周りの人が助け出すまでの時間を稼ぐことができ、有効だと思う」と話している。

 高齢化の進展を背景に、入浴中に亡くなる事故は増加傾向にある。

 消費者庁が厚生労働省の人口動態統計を分析したところ、二〇一五年に発生した家庭の浴槽での溺死者は四千八百四人で、〇五年の三千三百三十七人に比べて約一・四倍増加した。うち92%に当たる四千四百十六人が六十五歳以上だった。

 入浴前後の急激な温度変化で血圧が乱高下し意識を失い溺れるヒートショックをはじめ、浴槽から立ち上がった際の立ちくらみや、熱い湯に長時間漬かり体温が上昇したことによる意識障害などの場合がある。