<孤独死>貧困層の拡大で増加 進む地域の独自対策

2017年09月16日毎日新聞

 
 千葉県松戸市常盤平の団地で2001年、死後3年が経過した男性の白骨遺体が発見されて以降注目されるようになった「孤独死」。15年以上が経過した今も法的な定義はなく、行政も実態の詳細を把握できていない一方、独自に取り組みを進める自治会は少なくない。千葉、松戸両市の団地を訪ね、対策の現状を取材した。【秋丸生帆】

 ◇家族関係希薄化

 孤独死が近年増加傾向にあることをうかがわせるのが「引き取り手のない遺骨」の件数の推移だ。死者に身寄りがなかったり、家族らが引き取りを拒んだりした場合、墓地埋葬法などは、死亡地の市区町村長が埋葬・火葬し、遺骨も自治体が引き受けるとしている。

 千葉市によると、こうした遺骨は1人暮らしの高齢者のケースが多いという。同市が引き受けた件数は06年の83件から16年は2倍超の213件に。うち8割の173件を生活保護受給者が占める。同市内の生活保護受給者は05年の約1万1000人から15年は約2万人とほぼ倍増しており、貧困層の拡大が数字を押し上げた一因とみられる。

 受給者以外でも、身元が判明しているにもかかわらず引き取り手のない遺骨が06年の17件から16年は35件に。同市の担当者は「家族関係の希薄化が進んでいるのでは」と話す。

 ◇行政も各種施策

 高齢者らの孤立化や孤独死を防ごうと、各自治体は保険会社や郵便、電力・ガス・水道事業者などと協力。各世帯を訪問する担当者が、1人暮らしの高齢者宅で異常に気づいた場合に通報する仕組みづくりを進めてきた。県内では県のほか、全54市町村のうち48市町村が同様のネットワークを構築している。

 高齢者の介護などの相談窓口として市町村などが設置する「地域包括支援センター」も年々増加。保健師や社会福祉士らが常駐し、医療関係者らと連携して高齢者や家族の支援をしており、県内には169カ所ある(15年度)。

 県高齢者福祉課の担当者は「1人暮らしの高齢者が増えていくのは確か。現在の取り組みが十分とは思っていない。市町村や高齢者の意見も聞きながら対策を充実させたい」と話す。

 ◇「調査の徹底を」

 「センター任せで県は何もしていないのではないか」。そう話すのは5300世帯8000人が暮らす松戸市の常盤平団地自治会の中沢卓実会長(83)だ。同団地は01〜02年に孤独死が相次ぎ、住民から情報を受け付ける「孤独死110番」や交流サロンの開設などに取り組んできた。亡くなった人の生活や死亡の背景を調べ、再発防止に役立ててきた。同市も孤独死を「1人暮らしで誰にもみとられずに自宅で亡くなった人」と定義し、毎年件数を調査している。

 市全体の孤独死(50歳以上)は06年の72件から16年には191件と大幅に増加。ただ同団地では10年以上前は年間20件程度だったのが、ここ数年は10件程度で推移している。中沢さんは「孤独死はなくならない」と話す一方、同団地の対策が一定の成果を上げていると考えており「十分な対策を講じるには、個々の事例をきちんと調べ、分析しなければならない」と強調した。

 ◇「見回り」機能限界も

 10年以上前の春先。千葉市中央区の白旗1丁目団地で、藤浪康彦自治会長(60)は、1週間ほど連絡が取れなくなっていた1人暮らしの70代女性の部屋に急いだ。郵便受けにたまった郵便物を取り除くと異臭が踊り場にまで広がった。住宅公社に連絡して鍵を開けてもらうと、風呂場の浴槽の水の中で女性が亡くなっていた。「またか」。藤浪さんはそんな思いだった。

 同団地は1959年にでき、255世帯が暮らす。藤浪さんによると、約10年前まで毎年1〜2件の孤独死が発生。白骨化が進んだ遺体が発見されるケースもあったが、その後はほとんど確認されていないという。住民や地域包括支援センター職員の見回りで「異常に気づいたり、調子の悪い人を見たりすれば、住人が声をかけてくれるようになった」(藤浪さん)という。

 住民らが高齢者らの孤立化の防止に大きな役割を果たす一方、同団地が所属している蘇我中学校地区の町内自治会連絡協議会の武井雅光会長(75)は「しっかりした見回りを継続できている自治会は少ない」とみている。

 同地区では2006年から各自治会が見回りを始めたが、ある団地では16年5月、入院中の女性の部屋に同じ団地の認知症高齢者が迷い込み、数カ月後に遺体で発見されたこともあった。武井さんは「高齢化や人口減少により十分に機能しなくなりつつある自治会もあるのではないか」と指摘した。