高齢者の見守りから認知症対策まで、実装が進む「介護AI」
2017年09月12日ForbesJAPAN
厚生労働省の調査によれば、2025年には日本における65歳以上の高齢者は3657万人、人口の3割以上にのぼると推測されている。さらに、2060年までには我が国の平均寿命は男女共に90歳を超えるとの予測もある。
そんな中経済産業省は2016年4月、「新産業構造ビジョン」の中で、「人工知能(AI)により認識・制御機能を向上させた医療・介護ロボットの実装が進み、医療・介護現場の負担を軽減」するという、産業変革の方向性を示した。超高齢化社会に向けて、政府が本格的に腰を上げた形だ。
それでは、日本の介護現場では実際に、どのような形でAIが活用されているのだろうか? 今回はその実例をいくつか挙げてみたい。
介護専門企業もAIに着手
まず、政府が実装化を進めると示した介護ロボットについては、例えばMJIが開発したコミュニケーションロボット「Tapia(タピア)」が注目を集めている。Tapiaには遠隔からの見守り機能や、AIによる会話、生活サポート機能が搭載されているほか、危険を自ら判断し知らせる機能も搭載予定だ。
同社は今年2月、スパークス・グループが設立した「未来創生ファンド」などから、総額5.64億円の資金調達を実施したことを発表。調達した資金は、Tapiaに搭載されるAIの研究開発をさらに強化すること、また国外での販売促進に使われると明かされている。
2015年創設のアースアイズは、見守り機能付き3Dカメラ「アースアイズ」を開発。今年1月から店頭設置が開始されており、将来的には家庭用が発売される見込みだ。アースアイズは、設置位置から半径8mの撮影範囲内における人の行動を「五感センサー」で捉え、普段と違う動きをしているかをAIが識別、危険を察知してくれる。例えば転倒やうずくまり、異常音などを感知し、介護者に変わって知らせてくれるというわけだ。
また、介護大手のセントケア・ホールディングスは今年4月、産業革新機構などと組み、介護現場でのAI導入に向けた新会社、シーディーアイを設立したと発表した。要介護者の体調や症状にあった介護サービス計画を作成する技術を開発し、来春から介護事業者などに売り込むという。介護の専門企業がAI導入に着手するのは初めてであり、その動向が注目されるところだ。
認知症対策にAIを活用
政府が掲げたビジョンの通り、介護現場に重要な見守り機能についてはさまざまな形で実装されつつある。しかし、日本の介護における大きな課題として、認知症患者への対策も無視できないだろう。厚労省は2025年には日本の認知症患者は700万人を超え、高齢者の5人に1人が認知症になると推測している。
大阪工業大学の佐野睦夫教授の研究室では、AI技術を搭載し、認知症患者が安全に料理をすることができるシステムを開発している。小さなモニターとカメラの付いた「スマートグラス」をつけて包丁を使うと、包丁から数秒間目がそれると、モニター上に警告が表示されるというものだ。
さらに、製薬会社のエーザイは慶応義塾大学と共同で認知症の薬を開発する研究を発表。ラボを設置し、認知症の原因や遺伝・環境と病との関係、体内に発症を防ぐ仕組みがあるかを調査していく際に、大量の分子データの解析にAIを用い、開発のスピードアップをはかるという。
マサチューセッツ工科大学では、認知症の診断がよりスピーディーに行えるソフトウェアを開発している。1秒間に80回記録されるデジタルペンを使い、患者が指示された絵を描いている時のペンの動きや、ためらった時の精密な情報をデジタル化し、AIで診断をするというものだ。
人の代わりに見守り、ボケや認知症を防ぐ技術が続々と開発されるなど、超高齢化社会に向けての不安がうかがえる一方で、ヘルスケアアプリをはじめ、健康維持のための技術開発も進んでいる。「2015年末あたりからは、サービスの分野から技術的なブレイクスルーを必要とする分野へと流れが変化しており、中でもヘルスケア×AIの領域が急速に伸びている」(500 Startups Japanの澤山陽平氏の発言/「日経デジタルヘルス」2016年10月25付)との声もある通り、今後まだまだ同分野の快進撃は続くことは間違いない。
実際、米国ではすでにAIによる遺伝子解析の需要が拡大していたり、スタンフォード大学の研究グループが皮膚がんの診断にAIを活用したりと、その先へと歩みを進めている。来る超高齢化社会を前に、日本のAI活用はどこまで歩を進めることができるだろうか──。