高齢者の見守り、音やセンサーで異常を察知 負担も軽減
2017年09月07日朝日新聞
ITを使った高齢者の見守りサービスが広がっています。自宅で倒れるなどの緊急事態をすぐに察知したり、日常生活の改善につながったり。介護の負担を減らす効果もあるようです。
横浜市住宅供給公社のマンションで一人暮らしをする瀧巍(たきたかし)さん(91)は今年4月から、富士通が開発した見守りサービスを利用している。
このサービスの特徴は、「音」から異常を察知する点だ。部屋に置いた小さな弁当箱ほどの機器が、24時間365日、室内の音を収集する。
突然大きな音がした場合や音が長時間しない場合に、看護師が常駐するコールセンターに通知が届く。看護師は機器を通じて話しかけたり、電話をかけたりして安否を確認する。機器には、人の動きや温度・湿度を検知するセンサーも付いており、異常があれば看護師が安否確認する。瀧さんは「一人暮らしの不安感が随分薄れた」と話す。室内のボタンを押すと警備員が駆けつけるサービスには加入しているが、「突然倒れたらボタンを押せない」。
音による見守りを開発した背景には、利用者のプライバシーへの配慮もある。このサービスは、「音」の大きさや種類を検知するだけで、録音はしない。カメラでの見守りよりも利用者の抵抗感を減らし、「見守りとプライバシーを両立させた」(富士通の相原蔵人シニアマネージャー)という。
富士通は、サービス付き高齢者向け住宅や一般の戸建て住宅などへの導入も進める予定。利用料金は住居のタイプによるが、初期費用が2万8000円程度、月額3200円程度からを想定している。
在宅介護サービス事業を展開する「やさしい手」(東京都目黒区)は、人の動きや居室の温度、湿度、照度やドアの開閉を感知するセンサーを用いた見守りサービスを、昨年7月から開始。高齢者の生活改善にも活用している。
例えば、軽度の認知症で1日2回の訪問介護を受けている要介護1の女性(82)は、訪問介護以外の時間の大半をベッドで過ごしていることが、このサービスでわかった。ヘルパーが買い物に同行したり、デイサービスを追加したりして活動量を増やしたところ、家でもベッド以外で過ごす時間が増えたという。
別の要介護1の女性(84)の場合、本人はベッドで寝ていると言っていたが、実際はリビングで寝起きしている可能性が高いことが判明。転倒の危険があるため、リビングに手すりを付けたという。
やさしい手の高橋寛典・取締役執行役員は「介護職員の目が届かない時間帯の動きもわかり、よりよいサービスや措置を提案できるようになった」と効果を実感する。利用料はインターネット通信費込みで月額3300円(税抜き)から。介護保険は使えない。
■介護職員の業務も効率化
介護職員の負担軽減にも役立っている。
介護付き有料老人ホーム「アズハイム町田」(東京都町田市)では、今年2月からセンサーやスマートフォン、ナースコールを連係させた見守りを始めた。
介護職員一人ひとりのスマートフォンで、入居者がベッドにいるかどうかなどを確認できる。呼吸の状態などをもとに、横になっている人が目を覚ましているのか眠っているのかもわかるという。必要に応じて、ベッドから離れたら自動でナースコールを鳴らすといった設定も可能で、入居者の状態に合わせた対応を早めにとれるようになった。
これまで職員は、夜間は3時間に1回、各部屋を見回っていた。いまは、目を覚ましたり起き上がったりした人をスマホで確認してトイレに連れて行くなど、効率的な業務ができるようになったという。ナースコールが鳴った時刻などは電子カルテに自動で転記されるため、書類記入の負担も減った。
アズハイム町田では、職員全員分を合計すると1日あたり17時間、職員2人分の労働時間を短縮できたという。さらに、入居者がナースコールを鳴らす回数が1日平均90件から25件まで減り、入居者の転倒も以前の半分以下に抑えられるようになったという。職員の女性(23)は「入居者とのコミュニケーションなど、本当にしたい仕事に時間を割けるようになった」と語る。
アズハイム町田の梅原真寿美ホーム長は「スタッフの働く環境を改善し、よりよいサービスにつなげるためにも、介護業界にとってIoT化はとても重要」と話す。アズハイム町田を運営するアズパートナーズ(東京都千代田区)では、今後、同社が運営する他の介護付きホームへの導入を進めるという。
こうしたサービスが広がっている背景について、高齢社会と情報技術の関係に詳しい小川高志・未来社会産業研究所代表は「高齢者の孤独死や熱中症を防ぐためにきめ細かな見守りの必要性が増している。同時に、見守る側の負担軽減も求められている。センサーや通信ネットワークの進歩で、こうしたニーズを満たす低コストで多様なサービスが提供できるようになってきた」としている。