電話リレーサービス 聴覚障害者に代わってオペレーターが電話 「インフラ整備 進めて」

2017年09月02日西日本新聞

 
 聴覚障害者に代わってオペレーターが電話をかける「電話リレーサービス」が注目されている。電話しか連絡方法がない場合に役立つほか、メールやファクスに比べ即時性や双方向性に優れ、熊本地震の被災地でも活躍した。普及には課題もあるが、無料のモデル事業を行っている日本財団は「国や電話会社が、誰もが使える公共サービスとして整備すべきだ」と訴えている。

 このサービスは、耳が不自由で電話を直接は使えない人が、テレビ電話を通じた手話や文字チャットでオペレーターに用件を伝え、オペレーターが相手先に電話をかけ、同時通訳する仕組み。日本財団は2011年9月から東日本大震災の被災者支援として始め、2年後に全国展開した。事前に登録すれば原則無料で使え、7月末現在で約5千人が登録、月約1万4千件利用されている。ほかに民間の有料サービスもある。

 熊本市東区の入嶋久恵さん(67)は、3年ほど前から、病院の診療予約や商品の注文などに使っている。「以前は予約や注文のたびに出掛けていたので、すごく便利になった」という。

 なくてはならないサービスだと実感したのは熊本地震のときだ。自宅が半壊し、民間賃貸住宅を利用した「みなし仮設住宅」に入居する手続きなどで、役所や不動産会社へ何度も問い合わせる必要があった。「メールのように返事を待つ必要がなく、分からないことをその場で聞けて助かった」と振り返る。

 財団から委託され通訳を行っている熊本県聴覚障害者情報提供センター(熊本市)によると、震災後は安否確認や相談などで利用が増えた。サービスは離れた場所にいる相手に取り次ぐのが原則だが、被災した聴覚障害者が修理業者と現場でやりとりするような場面で、スマートフォンを通じて通訳支援したケースもあったという。

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 飲食店の予約や宅配便の再配達依頼から、仕事上の急な連絡まで、このサービスの活用範囲は広い。家族や友人を頼らなくていいので、気兼ねなく利用できるのも特長だ。

 ただ、世間一般にはまだよく知られていないため、オペレーターが「電話リレーサービスです」と名乗ると、セールスと誤解されたり、不審に思われたりすることもあるという。同センターの小野康二所長は「通訳を介すと秘密が外部に漏れるのではと、職場が制限をかけることもある。一般の人への周知と理解が必要」と指摘する。

 課題はほかにもある。6月、愛知県の三河湾沖で聴覚障害者4人が乗ったボートが転覆した事故では、電話リレーサービスに連絡が入り、海保に取り次いで4時間後に全員が救助された。しかしオペレーターの責任問題もあり、110番などの緊急通報には原則対応していない。

 24時間対応もまだ始まっておらず、通訳者の確保や予算の問題などから、利用できる人数も限られている。

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 同様の仕組みは、欧米など20カ国以上で実施され、通訳費用は電話会社や国が負担しているケースが多い。日本財団は17年度の事業費を約2億5千万円と見込んでいるが、本年度、初めて国から出された補助金は約1千万円にとどまっている。

 財団によると、聴覚障害の障害者手帳の保有者は約36万人で、高齢者らを含めると難聴者は推定1千万人以上とみられている。担当の石井靖乃公益事業部長は「高齢化の進展で今後ニーズはさらに高まるはず。駅のエレベーターと同じように、国や事業者は通信のバリアフリーにも取り組むべきだ」と話す。

 財団は8月から新たに利用者2千人を募集中。ホームページから申し込める。先着順で定員に達し次第締め切る。